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05
「………鬼?」

眉間に皺を寄せて聞き返すも、陽炎はただ頷いただけだった。

「そうだ。鬼となれ、信長」

言われている意味がわからなくて、ますます眉間の皺が深くなるのを自覚する。

「先ずは尾張を平定することが先決だが。それを成した後も必ず戦は続く。美濃には斎藤義龍、駿河の今川義元。その先には甲斐の武田に、近江の浅井、越前の朝倉。他にも敵は多い。他国の領土を求める馬鹿が多いからな。今のお前は敵も多いし、己の足元さえ危うい」

だからなんだと言うのだろう?
信長は生きることを諦めてはいない。
四面楚歌で命を落としても、それまでの命だったというだけのこと。
実の肉親であろうと、この手にかけようとしているのだ。
安穏とした人生が送れるとは思っていない。

この神には一体、何が見えているのだろう?

陽炎は信長の瞳を見据えて、不遜な笑みを浮かべた。

「でもな、お前はこの俺が気に入った男だ。戦え。戦って生き抜け。そして天下を獲れ」

「……天下?」

「そうだ。そのために鬼となれ。今のお前には現実味のない夢物語だろうが、俺はお前になら出来ると思っている」

出来ると思っている、と言うことは、別に陽炎に先の未来が見えている訳ではないらしい。

「……俺に何を期待しているのか知らねぇけど、俺は今を生きることで精一杯なんだ。知ってるだろう?俺は争い事が嫌いだ。守るための戦いはするが、攻めるための戦いはしない」

俺の言葉に陽炎の笑みが深まり、実に満足そうに頷いた。

「それでいい。さすが、俺様の見込んだ男だ。今は分からなくとも、いずれお前は天下を目指す。必ずだ!」

陽炎が余りにも呆気らかんと笑うものだから、思わず拍子抜けしてしまう。
何を見込んでくれたのかはさっぱりだが、何かしらの期待はされていると見るのが無難だろう。
信長は込み上げるため息を飲み込み、眼前に広がる城下を見下ろした。

「でだ、信長」

「ん?」

まだ話の続きがあるのかと振り返ろうとした瞬間、足払いをかけられた。

「ぅわっ………!?」

余りにも突然のことに対応が遅れたのと、がっしりと腕を取られたことで、受け身の体勢を取ることが出来ず、強かに背中を打ち付けた。
せめてもの救いは、下が草むらだったことだ。

「……っい、てぇ!何すん…………だ?」

陽炎の瞳に宿る劣情に、信長の思考は停止しそうになる。

「…………へ?」

間抜けな声が漏れた途端、唇に温かい物が押し付けられた。
開いていた唇の隙間から、ぬるりとした物が入ってくる。

「ん、んんん――――……っ!?」

確かめるまでもなく、それは陽炎の唇で、舌が侵入してきているのだと認識するのに時間はかからなかった。

「んぅっ………ンンっ!」

歯列をなぞられ、舌を絡めとらる。
執拗に吸い付いてくる唇の下で、信長は空気を取り込もうと喘ぐが、中々上手くいかない。
しかも、腰を押さえつけられて、身動きすら出来ない。
もう限界だと思い、舌に噛みついてやろうとしたとき、見計らったように解放された。

「な、なにいきなり欲情してんだ!この色呆け野郎!!」

息も絶え絶えになりながら、取り合えず罵声を浴びせておく。
なんだか昨日も同じ目に遭い、同じような会話をした記憶がある。

俺はどうも、陽炎に対して警戒心が緩いらしい。
何となく自覚してはいたが、こう度重なっては自己嫌悪に陥る。

「色呆けとは失礼だなあ。ま、確かに性欲は有り余ってるかもだけどな」

有り余らんでいい!
そんなもん!

「加護だよ、加護」

ああ、なんだ。
加護か。
………………加護、ん?
加護?

あっさりと言われた言葉に、思わず納得しかけるも、違和感を感じた。

「って、今回は加護要らねぇって……!?」

言っただろーーー!!?!?

その言葉は虚しくも、最後まで紡がれることはなかった。またもや口を塞がれてしまい、舌に吸い付かれてしまった。


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あきゅろす。
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