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陽炎は可愛く抱きついてくる信長を抱き締め返し、信長のうなじに口づけた。ゆっくりと手を下げていけば、丸い引き締まったお尻に触れる。

信長がピクリと反応を示したが、それ以上の反応は返ってこなかった。それを良いことに、陽炎は触り心地の良い小ぶりなお尻を、遠慮なく弄った。

乱暴にならないように気をつけながら、両手で掴み、揉んでは撫で上げを繰り返し、腰を押し付けて、硬くなり始めているものを擦り付ける。

「ちょっ、ま……待てって、湯あみ、したい……」

「何で?」

「だって、俺…土埃とか、汗も掻いてるし……」

いくら真冬とはいえ、長旅で汗は掻くし、馬を走らせれば土埃が舞う。
いくらなんでも、このまま致すわけにはいかない。
のに、この男は。

「俺様は気にならないぞ?」

「俺が気になるのっ!」

「………なら、湯殿でするか」

「はぁ!?」

清洲の城ならばいざ知らず。
いや、それもどうかと思うけど、さすがに音が外に駄々漏れになるような造りはしていない。
それ以前に、町民の湯あみと言えば、清洲の城と違い、お湯をふんだんに使えるわけではない。
いわば、蒸し風呂だ。
いや、清洲の城でも基本的には蒸し風呂なのだが、身拭いする場所が離れているということはないし、温まれるように湯に浸かることも出来るようになっている。

どうやって陽炎の申し出を断ろうかと思案していると、丹羽長秀が扉の外から声をかけて来る。
別に交わるのはこの際構わない。が、歩けなくなるのが目に見えていて勘弁願いたいのだ。

「お屋形さま、湯殿を一刻半ほど、貸し切っておりますので、今からでもお入り頂けますが」

「………分かった」

何で貸し切ってんの!?

仕方なく返事するも、頭の中は混乱状態だ。
確かに公家の人間も、町民の湯殿を時間を指定して貸しきることがあると聞くが、信長は別段貸し切るつもりはなかった。

「えーっと……俺、一人で入ってくるから……」

「んな、連れねーこと言うなよ」

「言うに決まってんだろ!?着いてくんなよっ!」

一応の釘を指して、信長は逃げるように湯殿に向かった。取り残された陽炎は、誰も見ていないと分かっていながら、ニヤけてしまう口許を押さえた。

「分かってんのかね?あいつは?俺様にとって、壁がなんの意味もないってこと」

そう呟いた陽炎は、のらりくらりと信長の後を追った。

そんな陽炎の行動を知らない信長は、ようやく人心地着いていた。

やっぱり一緒に入らなくて良かった。
見るからに壁の薄いそこは狭くて、人が三人も入ってしまえば、ごった返すのは必然だった。

「……狭いなぁ」

「ほんと狭いな」

「うん。でもこれが庶民の――――……えっ?」

当たり前のように返事を返してしまったが、ここには信長一人しか居ない筈で。
振り返れば、ごく自然に陽炎が居た。
まごうことなく、湯帷子で。

「えっ!?……な、何で?」

扉は閉めたし、ましてや人が入ってきた音も何も聞こえなかった。
いくら扉が背後にあっても、扉が開けば気づく筈だ。

「やーっぱり、気づいてなかったか」

「え?」

「俺様には壁の意味なんてないぞ?」

「………あ 」

信長は自分でも驚くほど間抜けな声を出してしまった。
よく考えなくても直ぐに分かりそうなことに気づかなかった自分が憎らしい。
今までも周りの様子を見て来ていた時だって、明らかに部屋に入らないと分からないようなこともあった。

それを知り得ている時点で気づけよ、俺っ!

果てしなく自己嫌悪に陥りながら、信長は諦めたようにため息をついた。

「大丈夫だ。さすがに手加減してやるから」

その一言に呆然とするしかなかった。
致す気満々で、全くといって良いほど当てにならなそうな目をしている。

「お前の可愛い声を聞かせてやるわけないだろ」

「だ、だったら…何もこんなところで……しなくても、良いだろ?」

いちるの望みをかけて聞いてみたところで、陽炎は悲しいかな、聞く耳持たずだった。

「声、押さえてろよ?」

「え、え、え?……う、嘘だろ?」

信長の動揺などお構いなしに、陽炎は手で信長の口を塞ぎ、腰を押し付けて、首筋に舌を這わせ始めた。
既に蒸気で体が温まっていて、更に体を這う陽炎の舌に、更に体温が上昇したような気がした。

「ん、ふぅ…………んっ」

敏感な胸の尖りを湯帷子の薄い布越しに転がされてしまえば、意識しなくても体が震えてしまう。
そして実感してしまう。

ああ、俺ってほんと、陽炎には弱いな……。
嫌だ何だと言いながら、結局陽炎に流されてる。でも、そんな強引な陽炎が嫌いじゃないのも事実なのだ。

陽炎の愛撫にしっかり反応してしまう自分の体を恨めしく思いながら、信長は与えられる快感に目を閉じた。


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