22 あら? 俺様、なんか悪いこと言ったか? 一瞬、信長の顔が曇った気がした。 それは直ぐに、首に抱きつかれて見えなくなったが、気のせいだと片付けるのは、違うと思う。 「何でもない訳、ねぇだろ?」 優しく頭を撫でてやりながら、根気強く聞いていくことにした。でも信長は、首を左右に振るだけで、答える気はないらしかった。 さて、どうしたものか? このまま抱くのは簡単だ。けれども、信長が俺様の何に引っ掛かったのか知りたい。 「か……陽炎?」 ぴたりと動きを止めた陽炎を不思議に思ったのか、信長が戸惑いながらこちらの様子を伺ってくる。 「た……楽しむんじゃ、なかったのか?」 おずおずと、けれど、どこか寂しそうに言った信長を見て、何となくその理由が分かった気がした。 多分、信長は自分の言った“楽しませて貰う”と言う一言に、引っ掛かったのだろう。 勿論、陽炎はそんなつもりで言ったわけではなく、ただお互いに気持ち良くなれれば、と思ったのだ。 あの一言が信長を落としたのは確実だ。 「あー……」 言い澱めば、信長はピクリと肩を震わせた。 そんな仕草も可愛いのだが、何に対してそんなに怯えているのか、陽炎には分からなかった。 「なあ、何にそんなにビクついてんだ?」 「別に、ビクついてなんか……」 そう言って信長は視線を下げる。 視線逸らして、俯いた時点で、肯定してるってことに気づいてないところも、可愛い。 「嘘つくんじゃねえよ」 「っ、……嘘なんかついてない!」 詰まった時点で嘘だろ。 そうは思っても、それを口にはしなかった。 このままでは、無意味に押し問答を続けるだけだと思った陽炎は、少し違う方向から聞き出すことにした。 「俺様がお前を抱く理由が知りたいのか?」 率直に言えば、腕の中の信長は固まったままピクリともしない。 こりゃあ……当たり、だな。 ……ふむ。 確かに俺様は、信長を守護してるから抱く。 でも、理由がそれだけならば、態々相手の反応は気にしない。女ならまだしも、男の喘ぐ姿を見て何が楽しい。 当たり前だが、今まで何人か守護してきて、可愛いと思って抱く相手は、実は信長が初めてだ。 ……ん? 相手の反応? 可愛いと思うから、信長を抱くのか? 守護してるからじゃなく? ………信長は男で、喘いで啼く声も可愛くて。 その声を、聞きたい? 自分の思考に、陽炎は少なからず驚いた。 今まで、男を可愛いと思って抱いたことは、一度もなかったのに、信長は例外であるらしい。 けれど、これではっきりしたことが一つ。 信長を大切にしたい。 己のせいで過酷な道を歩む信長を、少しでも癒したい。 そうか、信長に対するこの感情は……。 可愛いとは何度も言ってきたし、この感情を不思議に思っても深く考えたことはなかった。結果、信長に要らぬ不安を与えてきたのだ。 「なあ信長、確かに俺様はお前を守護してる。けどな、お前が可愛いから抱くんだぞ?」 ピクリと肩が反応したことで、正解だと思った。 気づいたばかりのこの感情を、正直に伝えれば良い。 陽炎は信長の頭を抱えて、優しく語り出す。 「俺様はお前を大切に思ってる。だから一緒に楽しみたい。お互いに気持ち良くなりたい」 「……大切?」 ようやく、信長の声で反応があった。 「そうだ。大切だから信長の反応が気になる。可愛いから抱くのであって、守護してるから抱く訳じゃない」 我ながら、見事な告白だと思う。 信長の耳が真っ赤に染まっているのを見て、満足感を覚える。そう。気づいていなかっただけで、大切に扱ってきたことは事実だ。 「信長から寄せられる好意は心地よかったし、俺様もそれに応えていたつもりだ」 「えっ!?こ、好意って……知ってたのか!?」 信長は驚いたように、勢い良く顔を上げた。 真っ赤に染まった顔がまた、愛らしい。 「気づかないとでも思ったのか?信長は結構、感情駄々漏れだぞ?俺様限定で」 これ以上ないと言うほど顔を赤く染めて、信長は口をパクパクさせている。 「すぐ赤くなるしな」 「うぅ……」 よほど恥ずかしかったのか、信長は唸りながら、顔を両手で隠してしまった。 「顔、隠すな」 陽炎は信長の隠れた可愛い顔を見るべく、手を外した。 すると、今度は顔を背けてしまう。 「ほら、こっち向け」 耳許で囁きながら、瞼や額、頬を口づけを落としていくと、ようやく顔を見せてくれる。 睫毛を震わせながら、その瞳は不安と期待に揺れていた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |