21
陽炎に可愛いなんて言われて、恥ずかしいのに嬉しい自分が少しばかり恨めしい。
俺、男なのに……。
何で喜んでんだよ!?
陽炎が話すたびに、息が耳にかかるのも、本当はぞくぞくしているのだ。
恥ずかしいことこの上ないのに、背後から抱きすくめられて安心してしまっている自分も大概だ。
陽炎の体温が心地よくて、思わず摩り寄ってしまいそうになるのを必死で耐えた。
陽炎にこの気持ちを知られる訳にはいかない。
陽炎との行為が、俺にとって別の意味があるなんて知られたら、陽炎が離れていってしまうかも知れない。
加護の為だけでも良い。
それで、陽炎と繋がっていられるなら。
多少の虚しさなんて、見ない振りをすれば良いのだ。
「こっち向け、信長」
「うん?」
何でもない風を装って振り向けば、陽炎の端正な顔がゆっくりと近づいてくる。
あ、口づけ……。
陽炎の暖かい唇が、信長の唇に落とされる。
啄むような口づけはとても心地よかった。唇を舌でなぞられれば、ぞくりと背中が粟立つ。
「ん……ふぁ、ん……っ」
ごく自然に口内に侵入した舌は、信長の弱いところを狙って舐め上げてくる。
信長はぼんやりとした頭で、全部知られてるな、なんて考えていた。
ねっとりと舌を絡め合い、互いの唾液を交換する。
気持ちいい……。
ずっとこのまま口づけていたい。
呑み込みきれない唾液が信長の顎を伝う。
「ふぅ、んん……んぅっ」
息が苦しくなり、信長が喘いだところで、銀色の糸を引きながらようやく互いの唇が離れた。
「立ったまましてみるか?」
「……何を?」
ぼんやりとした頭で聞き返すと、陽炎は口角を上げた。
「何って……そりゃ、ヤることは一つだろ」
「………」
陽炎の言葉を理解した途端、火を噴いたかと思うほど信長は真っ赤に顔を染めた。
「い、いい!そんなの無理っ!」
口づけだけでも気持ち良くて朦朧とするのに、立ったまま交じわうなんて、とんでもなかった。
絶対に腰が抜けて、立っていられない!
「そーか?たまには良いかと思ったんだが……」
全く良くないっ!
陽炎は茹で蛸のようになった信長を面白そうに見下ろした。
「うひゃっ!?」
陽炎は信長の両膝裏に腕を回すと、そのまま抱き上げた。
いわゆる、姫抱きだ。
「んな、可愛い声出すなよ」
「だ、出してないっ!」
もう、自己嫌悪だ。
陽炎に突然触れられると、毎回頭が働かなくなるのか、驚いて変な声を出してしまう。
陽炎にはそれが面白いらしく、いつもからかわれてしまうのだ。
落とされることはないと思うが、恥ずかしさから、陽炎の首に手を回して、しっかりと抱きついて顔を隠す。
褥にゆっくり下ろされれば、陽炎はそのまま覆い被さり、すぐさま濃密な口づけが落とされる。
「ん、……ふ、ぅ……」
鼻から抜けるような声が出るのが、また恥ずかしさを増長させる。
上顎を舌先で刺激されて、信長はとろけそうになってしまう。陽炎にも気持ち良くなって欲しくて、同じように返せば、陽炎にぎゅうっと抱き締められる。
気持ちいい……。
陽炎も少しは気持ち良く感じてくれているのだろうか。
そうであれば、嬉しい。
陽炎と深く舌を絡めて、吸い付く。
抱き締めてくる陽炎の体温も、匂いも、信長を幸せに感じさせてくれる。例えそれに、陽炎の好意が自分に向いていなくても。
好き………陽炎。大好き。
口には出せない思いを込めて、口づけで返す。
「なんか、今日は積極的だなぁ?」
「そ、そんなこと……は、ないと、思ぅ……」
どきりと心臓が鳴った。
そんなに分かりやすかっただろうか?
少しの居たたまれなさと恥ずかしさに、信長は視線を逸らした。
って、目、逸らしたら認めてるのと同じじゃないか!?
気づいても後の祭り。
陽炎が面白そうに笑ったのが耳に届く。
「ふーん。なら、存分に楽しませてもらうか」
その言葉に信長は呆然とした。
分かってる。陽炎は別に深い意味があって言っている訳じゃない。
でも、陽炎にとって信長を抱くのは、楽しみであって、愛情じゃない。
……愛情?
俺、陽炎になにか期待してた?
陽炎にとって、自分は楽しみを与えるだけの存在。
加護をもらう見返りに、体を差し出してる。
それ以上でも、以下でもない。
……現実だ。
「……どうした?」
「……何でもない」
陽炎は眉を潜めたが、信長は首に抱きついて、その顔をすぐに隠した。
目を閉じて陽炎の体温を存分に味わう。
今はなにも考えずに、陽炎の体温を感じていたい。
せめて、この一時だけでも……。
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