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「さて、どうする?」

「どうするって………」

陽炎の言わんとしていること。
それは、勘十郎と共に謀反を起こした、尾張岩倉城主織田信安のことだ。
彼は元々、斎藤義龍と内通しているし、放っておくということも出来ない。

「どうやら、嫡男の信賢を廃嫡にして、次男の信家に家督を継がせようとしているらしいから、ちょっと様子見かな?」

「呑気だなぁ、お前は」

「そんなに急ぐことはないと思うけど?」

「………確かに、信賢が黙ってないか」

「だろ?今は同じところを何度も攻める余力も勿体ないから」

戦わずに一人、敵が減るなら、それに越したことはない。

そんな会話をして暫く経った夏の日、信安が嫡男である信賢に岩倉城を追われたという話が聞こえてきた。

「な?言った通りになっただろ?」

「じゃあ、後は信賢を何とかすれば、尾張統一も目の前に迫ってきたってことか」

信長は陽炎の言葉に、視線を下げた。
ただ単に、尾張の国の内紛に終わりが見えてきたというだけだ。
駿河の今川は領土を拡大しようと、武田と同盟を結んだらしいし。そうなれば、次の目的は自ずと尾張になる。
侵攻してこない訳はなくて………。

また、無駄に血が流れるかもしれない。

「まーた余計なこと考えてんな?」

「ああ、いや。駿河の今川方の動きも気になるし。甲斐の武田と同盟を結んだって聞いたから……」

「また血が流れるって?」

完全に見透かされてる…。
そんなに顔に出てるのか?

俯いてしまった信長の頭を、陽炎は優しく抱え込んだ。
信長は驚いたのか、ぴくりと体を揺らした。

「嫌なことを考えるなとは言わねぇ。けどな、これから先、そうだな……お前の子供や孫、その子孫の為にこの乱世を、お前の代で終わらせる。こう考えられねぇか?」

優しく語られたのは、未来のこと。
これまで、血を見たくないだとか、戦が嫌いだとか、自分のことしか考えていなかった。
今、俺が存在するのは、その未来の子供たちの為だと。
陽炎はそう言うのだ。

そんな風に考えたことはなかった。
ただ、その場その場の対処で、生きるのに精一杯で。

「お前って、たまにはまともなこと言うんだな」

信長は少し笑った。
頭を抱えられていて、陽炎には見えないだろうけど。
でも、少しだけ、気持ちが楽になった気がした。
自分の子孫の為、それが、強いては民のためになる。

「あのなぁ、お前は俺をなんだと思ってんだ」

「……変態助米軍神?」

不本意だと言うように、陽炎は抱えている信長の頭に軽く頭突きを食らわせた。
ごんっという小気味良い音が部屋に響き、信長は後頭部を押さえて涙目になりながら陽炎を睨んだ。

「………ってぇ〜〜っ」

「失礼にも程があるだろがっ」

いや、陽炎の今までの行動のどこに、神らしいものがあった!?
ないに等しいだろ!?
基本的に傍にいるだけだし、ところ構わず盛ってくるし、話をしてても、何でかそっちの方向に持って行こうとするし。

「どこが失礼だっ!自分の行動思い出してみろよっ」

「ああ?」

陽炎は納得いかないというように顔をしかめながら、首を捻る。

「………あーー、そ、そんなこともないだろ?ほら、助言とか……じょ、げ……ん?」

陽炎は目を逸らして、ぽりぽりと頬を掻いた。
自らの行動に思い至ったのか、言葉尻がしぼんでいき、最後は疑問形になってしまっている。

「助言?助言ってなんだっけ?」

「あー、ほらまあ、俺は摩利支天だし」

「……摩利支天だし?」

おうむ返しに聞いてやると、露骨に目を逸らした。
そんな陽炎が可笑しくて、ついに笑ってしまった。

「あははははっ。陽炎って神様な割りに、欲にまみれてるよな?」

「喧しいっ。神ってのは基本、気まぐれで欲望に忠実なもんなんだよっ」

「あははははははっ!確かに忠実だよなぁ」

信長は久しぶりに心から笑ったように思った。
最近はいつも泣いてるか、怒ってるかのどちらかで、腹の底から笑ったのはいつ振りぐらいだろう。

「いい加減笑うの止めろよっ」

ぶつぶつ文句を垂れる陽炎がまた面白くて笑いが込み上げる。
本当に、神らしくない奴だ。


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