アディクト
10
「うっ…」
自分の漏らした声に目が覚めるとそこには見慣れた家具とベッドに天井…ではなくレンが俺を抱き込む様にして隣に寝ていた
「な…んで…」
口から出たのはその言葉だけだったが、抱き込む様にして寝ていたレンの唇が弧を描いた
「なんでって、ユウリが望んだ結果なんだよ?」
意味がわからない…俺は、取引をしたんだ。記憶と友達を引き換えになのになんで…覚えてる全部全部全部全部全部全部!
「…違う、…望んでない…望んでなんか」
「望んでなんかいない?、本当にそう言えるの?」
俺の言葉を引き継ぐ様にそう笑って起き上がり俺の顔の横にレンは手をつき顔を覗き込んできた
その目はメイと良く似ていて奥底の知れない吸い込まれそうな目をしていた
「ねぇ、ユウリ。じゃあ面白いはなしをしてあげる、」
「面白い…話?」
「そう、あるところに1人の人間がいたんだ。そこに悪魔が現れて人間にお前は明日には死ぬと告げる。人間は焦り、恐怖し、泣いた。でもそんな時、悪魔が言った。今までのすべての記憶か創造力、どちらかを差し出すというのならばお前を助けてやろう。人間は照らされた一筋の光に手を伸ばした。ねぇ、ユウリ。この人間はどっちを選んでどうなったと思う?」
顔を覗き込んでそう問いかけてきたレンの瞳に吸い込まれる様に口が動いた
「創造力…で生き続けた」
レンの片方の手が俺の頬を撫で、レンの唇が弧を描く
「人間は創造力を失って生きられるとおもう?歩くのも言葉を発するのも呼吸するのも、行動するのだって元をたどれば創造力がなければ出来ないだろう?」
「…っじゃぁ、記憶…」
「すべての記憶を失うのは生きていることさえ忘れてしまうだろう?生きる術も意味もすべて」
何が言いたい、何を言わせたい。治ったはずの息苦しさが身体を支配してゆく。
「…っ、じゃぁどっちを選んだんだよ」
精一杯睨みながらレンを見ると、レンは心底楽しそうな表情をみせた
「どっちも選ばなくてよかったんだよ?」
「…っ、それ、じゃあ救われないだろ…」
はぁはぁと息苦しさを滲ませながらレンの言葉に反発すると、頬を撫でていた手が止まった
「だって、その人間は救われない運命なんだよ。」
「…ど…して…?」
「ふふっ、どっちを選んでも生きられない。どっちも選ばなければ失うのは次の日失う命だけだったのに…選ぶことでその前日にすべてを失うんだ。」
それは、まるで…
まるで…
「今のユウリみたいだね」
ふわりと花を咲かせる様な笑顔でそう言ったレンがそのまま身を屈めて気付いた時には唇が重なっていた。
「…んっ!?…っふぁ…ん」
突然のことにさっきまで寝ていた腕でレンを押し返そうとしても力が入らず口腔内に侵入してきた舌を拒むことができない。歯列をなぞり上顎を撫でられる感覚に力が抜けていく。
「…っはぁ…」
「可愛いね、ユウリ」
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