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運命の独唱(アリア)
case2
氷室雫石side

「俺と掛川以外がいいだろう。」

そう呟いた憐に目を見張った。
奏くんを気に入ってる彼のことだ。真っ先に俺が、と言うかと思った。

「俺も…賛成する…」

大事そうに奏くんの額に手を当てている星羅をみて納得した。

「俺も星羅も無理となったら、お前か…あるいはそうだな、気心が知れてるなら一年同士のお前らでもいい。同じクラスだしな。どうだ」

憐の言葉に日向君と滝川君は、まさか自分たちもふくまれるとは思っていなかったのだろう。
驚いて固まってしまっている。

「…僕は」

おずおずと滝川君が何かを切り出そうとした時

「俺は…氷室先輩がいい。」

奏くんがいつもとは違う大人しい声で、でもその言葉は空間にしっかりと響いた。憐も星羅も表情を変えはしなかったがその主張に頷いた。

「…氷室先輩…僕達からもお願いします。」

滝川くんが拳を握り締め、俯きながら頭を下げて、日向君はハッとしたように続けて頭を下げた。
やり切れないだろうな…そう思いながらそれに応えるように頷いた。

「任された以上安心してくれていいよ。」

そういうと一年生の2人はもう一度軽く頭を下げ、部屋を出て行った。

「お前達も部屋に戻れ。」

憐はそう言いながら、奏くんの手を取り立たせると何かを耳元で囁いた。

「…」

奏くんは一瞬肩を震わせたあと、頷いたようだった。
なるべくここを早く出た方がいいな、そう判断した。
気に食わないが憐はとっさの判断に長けているし、指示においては意味のないことは基本的に言わない。

「さ、おいで。奏くん、今日は早めに休もう。」

出会った時のようになるべく優しく声をかけると、俯きながらもしっかりと後をついてきてくれていた。

「ついたよ、どうぞ」
「…お邪魔します。」

終始無言で奏くんを観察しながら、移動していた僕は、部屋の中に入るとソファーに彼を促した。

「どうしたの。もう僕以外には誰もいないから。」

奏くんの横に座り固く握り締められた拳を解くように、優しく手で撫でた

「…最低だ。」

苦しそうに絞り出された声は聞くだけで胸が締め付けられるかのようだった。

「それはどうして?」
「…傷つけた…。滝川を傷つけてみんなを攻撃しようとした。」
「…そう、奏くんはそう思ってたんだ。」

つらいね、そう言いながら手を伸ばし、奏君の前髪をよけて自分の方に顔を向けさせた。
涙でぐちゃぐちゃになった顔をみて、小さな子供みたいだと微笑みながら頬を撫でた。

「確かに事実としてはそうかもしれないね。否定はしないよ。奏くんが、本人がそう思ったことは誰にも否定できないし変えようがない。僕には僕の真実があるし、君には君の真実がある。だけどね、結局結果論でしかないんだよ。君は目を覚ました時、僕達を攻撃対象にしようとした。でもしていない。それが結果だ。」

「でも…掛川先輩が」

「そうだね。星羅が正気に戻してくれた。それも事実だ。でも、もし星羅がいなくても一歩手前で踏みとどまったかもしれない。それは起きなかったことだからどうなったかわからないんだよ。ただ今回は星羅がその場にいた。君は僕らを攻撃することはなかった。それが結果であり事実なんだ。」

わかるでしょ?とほおを撫でると宝石のように美しい目が揺らぎを見せた

「…でも、せっかく勇気を出してくれた滝川の気持ちを俺は…俺は友達なのに…でも、傷つけるのはもうやだ…」

ポロポロと目から次々に大粒の涙が溢れてくる。
滝川君は多分、名乗りをあげようとし、それに気づいた奏君は傷つけたくないが為に拒否し、そしてなにも動かなかったことに日向君は後悔している。

「…それに関しては、結果論なんて言わないよ。僕より、奏君の方が彼らのことをよく理解しているよね?ただ次会った時、奏くんが笑えていなかったら2人はもっと傷つくかもしれない。…いい?起きてしまったことはどうしたって戻らないんだ。変えられないし、変えようがないんだ。本当に辛いけどね。」

爪の跡がついてしまった掌をそっと握ると、少し握り返して奏くんは呟くようにいった。

「、、俺、怖い。」

たった一言。でもその一言に今までの不安や辛かったこと、僕達の知らなかった気持ちが全て含まれているかのような重さがあった。

「そう、怖かったね。」
「…急にカッとなって攻撃したことも、覚えてないことも!気付いたら人が倒れてることも…全部全部!怖かった!!」
「うん。」
「…怖い…自分が、自分の力が怖い…」
「…うん、よくがんばったね。」

自分の方に引き寄せて背中を撫でると、奏くんは子供みたいに泣いた後、疲れてそのまま寝てしまった。
起こさないように横抱きにし、フットライトの光を頼りにベッドに連れて行くとそのまま横たわらせ、布団をかけた。

「ほんと子供みたいだね」

涙を濡れたタオルで拭った後、赤く腫れぼったくなった瞼に温めたタオルを置いた。
今回のことは誰も悪くない。それぞれがそれぞれを想い行動したからこそみんなが傷ついた。

「ほんとにこういうのはやりきれないね。」


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あきゅろす。
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