紅と麦の物語



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十二国記小説
桓タイと祥瓊のお話


桓タイのお話




まず目が行ったのは、芯の強そうな瞳だった。
そして柔らかそうな水色の髪の毛、肌の白さ。

貧しい祖国のために、なんの縁もない彼女が共に戦うのは最初ひどく違和感を覚えたものだ。

それでも、王に会いたい。
無理な願いをかなえたいがためにここまで旅してきたのかと思うと、驚きと称賛でいっぱいになった。
違和感などいつのまにやら消え去っていた。


剣など持ったこともなさそうな彼女を守ろうと抱き寄せたとき、
すっぽりと体に納まる小ささにかなり不安を覚えたものだ。

そうして赤毛の王と出会った。

なんて運の良い人かとまたまた驚いたが、恐らくこの国の王の強い意志によって引き合わされたのだろうと、
今ならそう思える。

昔は我儘で、どうしようもなく子供で、多くの人を平気で傷つけた。
貴方たち半獣のことだって、何も知らずに差別してたのよ。
嫌いになったでしょ?

自嘲するように語る彼女を嫌いになれるはずもなく、
あの日、戦乱の中抱き寄せ守った時のように、
もう一度その体を抱きしめた。

思った通り髪の毛はやわらかかったのを覚えている。


ーーーどうやって射止めたのだ?


麦州候から冢宰に上り詰めた男にすら感嘆されるほど、
美しく高飛車な彼女。

その人が時折見せる幼さや寂しさが、今ではひどく愛しいのだ。



俺、今超幸せなんですよね〜〜〜


なーんて冢宰様に惚気れば、現在進行形でとんでもない
片恋をしている彼にしてみれば羨ましさ倍増であろう。


煩いと、無言で睨まれる始末。

それすらニコニコと受け止められるほど、今自分の心は満たされている。

ずっと、これからも一緒にいような。

そう伝えた時の頬の赤さを思い出す。
たぶん桓タイ自身もかなり赤くなっていたであろう。

温かい風に乗って、優しい香りが鼻孔をくすぐる。
ああ、これからもずっと一緒にいるんだ。
もっともっと頑張るぞ。

そう胸に強く誓って。


fin.




祥瓊のお話。


勢いよく体を引き上げられたとき、足首を痛めておぶってもらったとき、
そして窮地に立たされても動じない懐の広さを見たとき。

なんて大きく強い人だろうと思った。

とても人間業ではない力を使う時に、もしやと思った。

その予感が当たった時、己は初めて神という存在に感謝した。

ああ、あの頃の自分ならば、きっとまたこの人を傷つけただろう。
でも今は違う。自分は変わったのだ。
彼と同じ、もう一人の半獣に出会えたことによって・・・


熊なのね。

ポツリとつぶやいたとき、それが案外低い声になった。

それをどう受け取ったのか、彼はただ、頷いただけだった。

違うの!半獣が嫌いとかではないの!
そう思ったのに、うまく言葉が出なくて、そっとその胸元に触れてみた。

かちりと硬い筋肉が掌に伝わる。

驚いたように目を見開く彼の目をじっと見つめ、
にっこりと微笑んでみた。

驚いたけれど、貴方のこと、嫌いじゃないわよ?

言葉にするなんて恥ずかしいけれど、これだけ微笑んでいるのだから分かりなさい。

男に微笑むなんて、滅多にしないんだから!

頬が熱くなったのを覚えている。

そっと大きな掌が重なった。
その熱さもまだ覚えている。

王は真っ赤な髪の少女だった。
同じ年ごろと聞いていたけれど、随分と男っぽく正直者だった。

裏表のない性格は好ましく、ずっと疑い続けていた麦州候を呼び出し、
すまなかったと頭を下げた姿には驚いたものだった。

もちろん麦州候も驚いていたが、それよりも驚いたのは、
あのお堅そうな御仁が、少女に魅入られたかのようにその姿を目で追っていたことだった。

観察しているのか、王の美しさに目が離せないのか・・・

あの娘は鈍感そうだから、私がなんとかしないといけない。
そんな気持ちが芽生えたものだ。

桓タイはあれからしつこく言い寄ってきた。

本当にしつこくて嫌気がさして、何度も叩いて追い払った。
貴方にかまってる暇なんてないの。
叱っても叱っても、子犬のように側に来てはその日の出来事を話したり聞いたり・・・

まるで恋人同士のように毎日毎日・・・

挙句のはてには、あの人が来ないと何かあったのかと不安を覚えるまでになったのに・・・

王は王でどう見ても冢宰に狙われているのに気づかない。
あの男もなかなか狸だから、もちろんかなり気を使ってはいたけれど、
生憎、宮中育ちの祥瓊にはそのようなもの通じない。


今日も今日とて二人きりで筆の練習だなんて。
せいぜい襲われないように気をつけなさい。

きょとんとした顔でこちらを見ていたけれど、
今日はあのバカ熊に呼び出されていたから助けてあげられないわよ。

そうか、楽しんできてな。

にこりと笑んで送り出す少女に深い深い溜息をつく。




たどり着いたのは汗臭い鍛錬場だった。
禁軍の武官たちはもういなかったけれど、だからといって女を一人このような場所に来させるなんて。
相変わらず無神経なひと、とイライラと待つこと数分。


悪かった。ちょっと来てほしい。

突然現れて突然手を握られ引っ張られ、
そのまま鍛錬場のちょうど裏側に連れてこられた。

何をするのかと抗議するも、普段と違う雰囲気の男に黙らざるを得なかった。

優しい青の瞳はじっと祥瓊に注がれている。
その熱さに思わず後ずさった。
まさかとは思うが、彼に限って無作法を働くわけはない。
と思ったが、素早く一歩前に出てきて、がっちりと両肩を掴まれた。

びくりと身を震わせ、それでも居丈高に、
何するのよ!と叫べば、
勢いよく頭を下げられ、

「俺とここここ交際してください!!!!」

なんてまるで思春期の少年に有りがちな告白をしてきた。

貴方一体いくつなのよ。

妙に冷静になった頭でそのようなことを考える。

そして、深く頭を下げたまま微動だにしない男を見下ろし、本日何度目かの溜息をついた。

両肩に乗った手を握ると、恐る恐る見上げる桓タイを目が合った。

ひどくそっけない顔をしていたと思う。
心臓がばくばくと言っていて、顔もかなり熱かったけれど、
ツンとした態度を取ってしまう。

一種の照れ隠しだ。

それでも一応答えねばと、小さく頷くと、

またまた桓タイが大きな声で、お願いだ!!!!
なんて叫ぶから、思わずその後頭部をぴしゃりと叩いてしまった。

痛いぞ。

涙目で訴えられ、是と言ったのに聞かないからよと言い訳する。

だからってなあ・・・って、え?

是と言ったのが聞こえなかった貴方が悪いのよ。
やっぱり取り消すわ。

可愛げなくぷいっとそっぽを向けば、今度は両手を握られ、
ひどく嬉し気な顔で、ありがとうと言う始末。

まったく、この人にしろあの子にしろ、素直すぎて眩しいわ。

そっと目を細めて嬉し気な顔を見つめる。

ずっと一緒にいような。

にっと笑う頬が、月明かりでもわかるほど紅潮していた。

祥瓊までもつられて赤くなる。

もう一度そっぽを向いて、今度は先ほどより大きく頷いた。

今度はそれをしっかり見ていたのだろう。

力強く抱きしめられ、ああ、この人の腕の中は本当に安らげる。
なんて柄にもないことを考える。


きっと、これからは大丈夫。
ここが私の居場所だから。


fin.




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