紅と麦の物語



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十二国記小説
悪戯


くいっと袖を引っ張られ、陽子の体がわずかに傾いた。
必死で足で踏ん張っているため浩瀚の体へ倒れこむことはなかったが、
陽子がバランスを崩したのを知っているくせに未だ放そうとしない不躾な掌に唇をかんだ。

「何をするんだ。」

問いかけには答えず、行儀正しい男には珍しく、頬杖をついて
再度くいっと引っ張るその手に陽子は浩瀚を睨みつけた。

その視線の強さに浩瀚は嬉しそうに口角を上げ居住まいを正した。
あくまでもその顔は涼しげな表情で。

「貴女に叱られるのも悪くないと思いましてね。」

「叱るにきまってるだろ!」

頓珍漢な応えにますます腹が立ち、思いっきり腕を引くと、
案外簡単にその呪縛は解け、予想外の出来事に陽子は後ろの長椅子にしりもちをつくように倒れこんだ。

目をぱちくりさせる陽子を見つめて軽く笑い、浩瀚がそっと陽子の頬に手を当てた。

「うわ!やめろ!」

思わず逃げようとする陽子を逃がさぬよう両腕を長椅子に預け腕の中に閉じ込める。

近づく顔に動悸が収まらない。

どいてほしいのにもっと近くにいたい。

矛盾する心に困惑は深まるばかりだ。

息を吹き込むように耳元に当てられた唇。

主上、と呼ぶ声は低くかすれていた。

ただ恥ずかしくて勢いのまま突っぱねた両手は浩瀚の胸を強く押し、
陽子は一瞬のスキをついてその呪縛から逃れた。


それを面白そうに見やるも、後を追わない。

・・・逃げても無駄です。

どれだけ強く拒んでも、いつか貴女は私を求めるんだ。

柔らかい頬の感触を思い出すように掌に目を落とし、
もう一度口角を上げる浩瀚が次の一手にどのような行動をとるかは本人にしか分からない。




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あきゅろす。
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