紅と麦の物語



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十二国記小説
一緒にいよう
春も深まり花々が色鮮やかに咲き乱れるこの頃。

雲海の上、金波宮でも春の陽気にあふれていた。
蓬莱のように「桜」は存在しないが、下界の陽気に当てられたのか、
桃色や黄色のかわいらしい色彩の花がそこらかしこに咲いている。



蝶も舞い、何とも穏やかな時間の流れるその空間に、
一組の男女が紛れ込んだ。

少女がほんの少し駆け足で広々とした空間に入り、
男がゆったりとそのあとに続く。

「ほらな!とても綺麗だろ?」

自慢げな様子の少女に男は「確かに」と答える。

「時々ものすごく息苦しくなる時があるんだ。
そんな時にこういう人の介入してない場所に来るのだけれど、
浩瀚はそういうことはない?」

どうだろうか、と小首をかしげる浩瀚を見やり、
陽子はやはりこちらの世界の人間には分かりえないことなのかとほんの少し落胆する。

「一人になりたいときには書物を読みます。
ただ・・・確かにこのような場所でひと時の時間を過ごすのも良いでしょうね。
しかしよろしいのですか?」

「何が?」

「貴女だけの場所を私などに教えて。」

「浩瀚だけだ。絶対に秘密だからね。」

人差し指を口元に当て、ぱちりと片目をつむる陽子に、心臓がドキリと高鳴る。


しばらくその場を満喫したが、そろそろ戻らないと女史や冢宰府付きの官吏が騒ぐだろう。

二人は重い腰を上げ、来た時とは異なり名残惜しむようにゆっくりとその場を後にした。


緑の道なき道をかき分け、本当にこの道で良いのかと浩瀚は不安になる。

陽子があまりにも自信たっぷりに歩いてなければ引き返していたかもしれない。

陽子はというと、敢えて遠回りの道を選び先へ進んだ。

一緒にいる時間が長くなればよいと、ただそう思って。

行きとは違う順路で帰る陽子に浩瀚は最初は不安も感じたが、今は違う。

この順路は陽子とより長く、そしてより近くいれるのだ。

もし敢えて陽子がそう願いこの道を選んでいるのならばどれだけ嬉しいことだろうか。

そうであってくれ。

交錯しそうでしない二人の想いは未だ茨の道の中にある。

しかしいつか交わるその日を信じ、今はただ、前へ進む。

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