紅と麦の物語



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十二国記小説
プロポーズ大作戦〜crazy about you〜
※大人向けな表現がありますので、お気をつけくださいませ。








春は恋の季節だ。

ここ慶国でもどことなくふわふわとした雰囲気が立ち込める今日この頃。

どことなく憂鬱そうな男が一人、薄暗い部屋で静かに胡弓を奏でていた。

静かで優しい音色はいつしか激しい音へと変わっていく。

何かに対して怒りをぶつけるような激しさは憎しみすら感じるほどだ。

浩瀚はただ一人の愛しい人を胸に、言葉にしても足りないほどの思いを音に乗せた。

どれだけ言葉を尽くしても届くことのない思いは虚しいだけだった。

彼の人はきっと必死で答えてくれようとしているのだろう。
しかしそれは男にとってはただのやさしさでしかなく、
それがむしろ男を余計に虚しくさせるのだった。


これ程までに焦がれたことがいまだかつてあっただろうか。

そして己がこれ程の熱を持っていたことにただただ驚いていた。



やがてその音が終盤に迎えるころ、背後に静かな気配を感じた。


音はより一層激しくなる。

その音の激しくもどこか虚しい響きが少女にはどう届くのだろうか。

浩瀚は苦し気に眉間に皺を寄せ、猛り狂いそうになる気持ちを音に託した。

貴女には分からないだでしょう?
私がどれほど貴女に焦がれているのか。
長年忘れていたこの気持ちがどれほどこの身を狂わせるかが。
貴女は言葉が少なすぎる。
私は時折分からなくなるのです。
何故貴女が私をそばに置いてくださるのだろうか。
どうして受け入れてくださったのだろうか。

貴女にはこの気持ちが分からないだろう?

最後は傲慢といってよいほどの乱暴な気持ちでただただ弦を引いた。

その気持ちが伝わったのだろうか。

しびれを切らしたように背中の温もりが、小さな手が浩瀚の体に回された。


その手が制止するように浩瀚の手を握った。

「浩瀚、今の曲は?」

「かつて愚かな男がある女性に恋をした。
その時に作られた曲ですよ。」

そうかと呟き、なおも背中から離れようとしない陽子を苦笑交じりに振り返る。

「どうかこちらへ。お顔をお見せくださいませ。」

「嫌だ。なんだかお前、怖いんだもん。」

「それは残念だ。」

淡々とした声で答えるが、心の中はいまだに仄暗い闇で包まれている。

貴女が分からない。
こうしてわが元へ訪ねて下さるくせに、決してその心へ触れさせようとはしてくださらない。

それでも私は貴女が・・・好きだ。


心臓が痛いほど苦しい。

それが辛く、陽子がいるにも関わらず低く唸り、胸を抑えた。

苦しくて仕方がない。
愛しくて仕方がないのに・・・

貴女は私のものにはならないのか。


「浩瀚?」

そっと前へ回り込み、浩瀚の頬を優しく包む陽子はまるで天女のようで、
浩瀚は無意識にその体を抱きしめた。

胸元へ額を押し付け、その鼓動を感じる。

いっそのことしばりつけて一生他の者の目の届かぬ場所へ連れていきたい。

そんな狂人じみたことさえ考えてしまう。

「浩瀚、さっきの曲、すごかったね。
お前の気持ち、辛いのかなって思った。」

浩瀚の様子が明らかにおかしいのを目の当たりにし、
陽子はたどたどしくも必死で浩瀚へ言の葉を伝えた。

「浩瀚、どこにもいかないでくれよ?
私はお前がいないときっと・・・だめだ。」

その小さな声はまっすぐに浩瀚の心に突き刺さった。

その瞳を確認するかのようにじっと見つめた。

「なぜそのようなことを?」

「先ほどの音がお前の気持ちを表しているのならば、お前は今物凄く苦しいのだろうなって思ったんだ。
今の生活が苦しいのかなって。」

そこでいったん言葉を切った陽子を、浩瀚は辛抱強く待ち続けた。

やがて紡がれた言葉は予想外のものだった。

「私は最低だ。
お前が苦しい思いをしているかもしれないのに、浩瀚を手放したくないって思った。
命令でも勅令でもいい。
ただお前にそばにいてほしい。そう思ってしまった。」

ごめんね。

弱弱しく微笑む陽子を見て、浩瀚は同じことを考えていたのかとうれしく思った。

気持ちが交錯したと実感したのは初めてだったのだ。

もう一度抱きしめ直し、耳元へ口を寄せた。

「私は貴女にそばにいてほしいと思いました。
まったく、貴女も私も互いに言葉が足りなかったようですね?」

そっと胸元を開き、やわらかい双丘に触れようとする浩瀚をパシリとたたく。

「どさくさに紛れて何しようとしてるんだ。
せっかく勇気を出して言ったのに。」

触らせないとでも言うように浩瀚の胸板へ体を押し付ける行動は
男を煽るには十分だった。

行為に及ぶ前に頼みたいことがあるのに、どうにも我慢できずにその体を押し倒した。

わっと驚く陽子だったが、すぐに恥じらいの表情を見せた。

頬が真っ赤に染まっている。

その頬に舌を這わせ、まるで番犬のように寄り添った。

すっかり熱を帯びた己を結合させるにはまだ早すぎるため、
白く長い指をゆっくりと陽子に中心へ挿入した。

しっかりと閉じられたそこはゆっくりと浩瀚を受け入れ始め、
やがて部屋にはくちゅくちゅと卑猥な音が響き始める。

口元に手を当て恥じらう陽子の姿はただただ浩瀚を煽る。

我慢の限界だった。

性急に取り出した己自身を何度か扱き、確かめるかのようにその割れ目に擦り付けた。

やがて二人の熱が絡み合い、浩瀚は陽子の中へとゆっくりと入った。

熱いそこはトロリとしていて、浩瀚は獣じみたうなりを上げた。

気持ちが良い。

熱のこもる目で陽子を見下ろすと、顔を真っ赤にさせ、
見られたくないとでもいうように目元を隠している。

「見せて。」

浩瀚がワザとらしくその手をなめると、
ひゃっとなんとも色のない声が返ってきた。

それが可笑しくてクスクスと笑うと、陽子がようやくこちらへ目をやった。

その拗ねたような色が陽子に色気を与えた。

浩瀚は生唾を飲み、大きく腰を動かした。

頬を包み何度も深く口づけし、互いが擦れあう気持ちよさに没頭した。

やがて陽子が浩瀚の腕をぎゅっと握り、絶頂を迎える。

浩瀚がもう少しと唸るも、もうだめだと陽子はびくりと身を震わせた。

ひときわ大きく腰を打ち付けた浩瀚もその身を震わせ、
快感に酔いしれた。

荒い呼吸が部屋に響き渡る中、浩瀚は先ほど伝えたかった言葉を音に乗せた。

それは疲労困憊の陽子を覚醒させるに十分すぎるほどの内容だった。

「え?なんて?」

ずるりと己を抜き取り、陽子の手を握り口づける浩瀚。

悪戯っぽい行動とは裏腹に、瞳は真剣な色を湛えている。

「私と結婚してください。」

一生貴女に尽くします。

さわさわと暖かな風が通り抜ける。
浩瀚の乱れた髪がさらりと動くのを呆けた顔で見つめる陽子がその言葉を理解するのに数秒要した。

皺くちゃになった服をそのままに、陽子を抱き起して抱擁する浩瀚は、
耳元に囁かれた言の葉を聞いて、ゆっくりと瞳を閉じた。



暖かな温もりも平穏な国も、美しい四季も全て守り抜く。

ただただそう誓い、春の喜びを分かち合った。





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