紅と麦の物語



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十二国記小説
拍手小説その1〜千日手〜
パチン、パチンと軽快な音が響き渡る。

開け放たれた窓からは春の暖かな風が流れ込んでくる。
そしてその窓からほんの少し離れた所に机に向かい合って座る大小の影が二つ。

パチンという音から少し間を置いて、パチンと軽快な音が鳴る。

途端に小さな影がビクリと動いた。

「ちょ、ちょっと待った!」

真っ赤な髪の少女、陽子は慌てたように目の前の盤を覗き込んだ。

それを余裕満面の顔で眺める怜悧な顔の男、浩瀚がくつくつと笑いながら可笑しそうに顔をほころばせた。

「主上、本日何度目のちょっと待ったでしょうね?」

意地悪くそう言うと陽子は口を真一文字に引き結び、
むすりとした顔で「王」と書かれた駒を進めた。

「おや?よろしいのですか?」

「何がだ。」

「いえ、そのように王を出されるとあまりにも無防備かと思うのですが・・・」

「うるさい。
お前みたいにネチネチ嫌らしくて卑怯で陰険なやり方は嫌いなんだ。
王が率先して動くべき戦況なんだ!」

「いかにも主上らしい。
では私はこういたしましょう。」

と、今度は「桂馬」と書かれた駒を進めた。

一見無意味な策のように見えるも、確実に王の喉元を狙った一手だった。

陽子は必死で応戦するも、桂馬は確実に効いていて、
着々と王の首を絞めつけていく。


「主上、もう逃げられませんよ。
投了なさったらどうです?」

口元にうっすらと浮かべた笑みは底意地の悪さを垣間見せる。
それに対し陽子は憮然とした顔で一言。

「負けだ。お前の勝ち。」

とだけ。

では、と腰を上げた浩瀚をにらみつけるように見据え、
観念したように目を閉じた。

浩瀚は嬉しげに身をかがめ、陽子の唇へと己のそれを重ねた。
一瞬震えた陽子の睫毛をじっと見つめ、これだけでは足りないとばかりに頭と背中をがっしりと押さえた。

ねっとりと舌を差し入れると、恐る恐るとばかりに絡みつくから何度でも欲しくなる。

息も絶え絶えになるほど堪能し、そっと解放する。
ただしその腰には未だ両腕を絡めたままで。


ようやく息の整った陽子がはっとしたように顔をあげた。

途端に浩瀚の顔が困ったように歪む。

「浩瀚、お前・・・」
「すみません。どうも反応してしまったようで・・・」

その言葉に陽子はジタバタともがいた。
「離れろよ!」

必死で逃げようとする陽子をいとも簡単に押さえこみ、なおも押し付けるようにすり寄った。

「嫌です。
ねえ、続きをしませんか?」

低く囁かれる言葉は嫌でも夜を連想させられる。

「お前のその桃色な脳みそは何とかならないのか!」

「あいにくこれは貴女に対してのみ過敏に反応しますので仕方ないでしょう?」

「我慢しろ!」
「それは無理でございますれば、主上も気持ちよくしてさしあげるのですからお互い仲良く協力いたしましょう?」
「何が協力か。無理やりっていうんだ!」

「無理矢理でも貴女の感度は実によろしい。
よもやそういう行為がお好きで?」

「そんなわけあるか。
って、うわ!どこ触ってるんだ!離せ!」

片手で両腕を拘束し、もう一方の手で簡単に侵入する手が慣れたように這いまわる。
その感覚に教え込まれた身体は過敏に反応して、その続きを期待してしまう。
それが嫌でなおも反抗し続けると、急に拘束していた手が解放された。

驚いたように目を開くと、随分真面目な顔をした浩瀚が目の前にいた。

「主上、少しじっとなさってください。」

真面目な顔をするものだから謝るのかと思ったのも一瞬のことで、
どこまでも恋愛脳な男にほとほと呆れる。

「こんの、馬鹿!」
「ふっ。威勢がよろしいことで何より。
そうでなくては面白くありませんから。」

真面目な顔から一転、嬉しげに目を細める男の顔は喜色に満ちていて、嫌でもサディストな性格を彷彿とさせた。

「お前のその性格、ほんと大嫌いだ。」
「私は貴女の全てが大好きですよ。」
「うるさい。お前なんか嫌いだからな。」


いつの間にやら将棋は散らばり、そこには美しい紅が広がっていた。
その上に覆いかぶさる影が場違いなほど明るい部屋の中、
2人は快楽の海にたゆたっていった。



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