世界で一番きみが好き 3 僕の目の前には、高級そうなレストラン。ではなく、実際、高層ビルの最上階に位置するオープンしたばかりのフレンチレストランだった。確か、この間ミシュランの一つ星に紹介されたとテレビでやっていた気がする。 「こんな高級なところ、僕には場違いじゃ……」 「るーい。瑠衣は気にしなくていいんだよ。だって、瑠衣は俺の大切な人なんだから」 貴之は僕の視線と同じ高さに屈み、頭に手を置くと柔らかく微笑んだ。 食事をしようという貴之の言葉は、僕の中での感覚はファミレスや近くの喫茶店だったのに、まさかこういうところに来るなんて。 考えもしなかった……。ううん、できなかった。 一般庶民の僕とお金持ちである貴之との感覚は違うと、改めて実感する。 そして、その人物は今ここにはいなかった。 ロビーに一人残された僕は、周囲をきょろきょろと見回した。 煌びやかな空間は、まるで自分一人が別世界にいるようで、何となく寂しい気持ちにさせた。そして、場違いな雰囲気に委縮してしまう。 華やかな衣装を身にまとう人々がレッドカーペットの上を通り過ぎていく中、何となくすれ違う人がちらちらと見ていくような気がして落ち着かなかった。 ソファーに腰を下ろし、貴之を待っているとしばらくして頭上に影が差した。顔を上げると、予想していた人物ではなく、にやりとした笑みを浮かべた男が目の前に立っていた。 「ねえ、君さっきからそこに立っているところ見るけど、誰か待っているの?それより、なかなか来ない奴なんかほっといて俺とどっか遊びに行こうよ。ねっ」 馴れ馴れしく肩を抱き、顔を近づけてくる男に嫌悪感を抱く。体を離そうとしても、思いのほか力が強くできなかった。なおも、体をべたべたと触ってくる男になすすべもなく体を震わせることしかできなかった。 周囲がにわかに騒がしくなり、聞き慣れた声が僕の耳に響いた。 「ねえ、その子離してくれる?」 スーツを着こなした背の高い男性、貴之の姿があった。スーツを着ているせいか大人びて見える。圧倒的な存在感を放ち、特に女性から熱い視線を集めていた。 そんな周囲の視線を気にすることなく、貴之はにこやかな笑みを見せ、近づいてきた。そして、僕の腕を引っ張り胸元に体を引き寄せる。 男から解放され、ほっと息を吐いた。 「瑠衣。大丈夫?」 「あっ……、う、ん」 貴之は、視線を僕から男に視線を移すと、眉間にしわを寄せて眼光鋭く見据えてきた。 「瑠衣に何していた?」 「あ、もしかして、西門グループ御曹司の貴之様。あの、その……これは……」 「君は確か……支倉食品会社の社長だったよね。そこはね、俺が社長を務める会社の傘下にあるんだ。それが、何を意味するのか賢い君なら分かるよね?」 男は焦った顔で、何度も頭を下げた。その態度に、貴之は表情を変えることなく、鋭いまなざしを向けると、男は逃げ去るようにしてその場を立ち去った。 緊張感から解放され、強張っていた肩の力を抜いた。 未だ硬い表情を浮かべる貴之を目の前に、微妙な雰囲気が漂い、恐る恐る見上げた。 「ごめん、貴之。迷惑掛けて……」 「瑠衣が謝る必要はないよ。悪いのはあの男だ。瑠衣は可愛いから目をつけられるのは仕方ないけど、……あとで釘をさしておくからね」 貴之は優しく囁いた。 「そんなことないよ、僕は」 「瑠衣、自分のことを過小評価しないで。瑠衣は、俺の大切な人だよ。さっき、瑠衣があの汚らわしい男に触られている時、俺がどんな気持ちだったかわかる?もし、次あんなことあったら、俺、相手を殺しちゃうかも」 物騒な言葉を口にする貴之の瞳は暗く濁っていた。恐ろしい笑みを浮かべて遠くを見つめる貴之に、返せる言葉がなかった。 そんな僕の反応を目にとめて貴之は目を細めた。 「瑠衣、行こうか。席に案内するよ」 [*前へ] [戻る] |