終焉が奏でる始まりの歌
8
痛みと熱でうなされ朦朧とする意識の中、僕は夢を見ていた。
夢の中の僕は、道がない道をぼんやりと歩いていた。
白い靄の中で人一人いない静寂な世界。
『……ら、神楽……』
どこからともなく僕の名を呼ぶ声が聞こえたような気がした。振り返っても、誰もいなかった。
何か恐ろしい者に遭うような気がして、一歩後ずさりした後、もと来た道を引き返そうとした時、それを阻むかのように、生温かいものが僕の足に絡みついた。
「嫌だ!放して!」
必死に振り払おうとしても、離れることはなくより一層絡みついてきた。
『神楽ぁ、どうして離れようとする?私は、お前が心配で来たというのに』
悲しそうな声に動きを止め、顔をあげると妖しく危険な香りを纏った男が僕を身下ろしていた。白い靄がかかっているせいか、男の顔ははっきりと見えない。
「嫌ぁ……」
『そんなに暴れないで。今、背中の傷を治すからね』
僕が着ていた着物は男の意思に従うかのように、するすると腰のあたりまで降りていった。
「ひゃぁっ……」
生温かい感触を感じ、びくりと体が跳ねた。男は長い舌を背中の傷口にそって這わせ、赤い液体を舐めとった。ぴちゃぴちゃと水音を立てて、淫靡な雰囲気が漂う。
『ああっ、神楽の血はなんて甘いんだろう……、もっと、もっと味わいたい。いや、それだけじゃない。神楽の肌を舐めまわして、匂いを感じて、体の中に入りたいよ。でも残念なことに、まだ時は満ちていないからね』
「時……?満ちる……?」
『でも、その身体を愛することは許されるだろ?』
触手が僕の肌を愛撫するように撫でまわし、僕の胸にある赤い膨らみや性器に刺激を与えていく。
他人にはおろか自分でもめったに触ることのない場所を触られ、快感が体中を駆け巡る。
体が熱くなり、自然と僕の息が上がった。
そうした僕の反応が嬉しいのか、嬉しそうに目を細めた気がした。今まで感じたことのない感覚に、未知への恐怖を感じて体を震わせると、男は触手の動きを止め、安心させるように僕の頬を撫でた。
『神楽、恐がることはない。お前に痛いことはしないよ。大事に、快楽を教えてあげる。愛するだけだ』
止まっていた触手は再び動き始め、僕の性器からとろりと溢れ出る白濁を吸い上げた。
「やぁぁぁ……」
より強い刺激に、電流が走り体を痙攣させた。男は、四肢を弛緩させ、呼吸を荒げる僕の頬を愛しげに撫でた。
『ごちそうさま。神楽の甘い蜜は美味しかったよ』
僕を見つめるその顔は、恍惚とした表情で、満足げに吐息を零した。
永遠とも感じられる長い時間を過ごした後、何時の間にか男の姿は消えていた。
でも、それだけでなく僕の背中にあった傷や痛みも綺麗になくなっていた。
『神楽、もう少しだよ……。もう少しで、お前に会える』
遠く耳に響いた声と唇に濡れた感触を最後に、意識は光の中に戻った。
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