終焉が奏でる始まりの歌
5
年月は過ぎ、僕は17歳になった。
「風音様、お茶が入りました」
「ありがとう、神楽」
優しく微笑み、春の日差しの様な温かい雰囲気を纏った女性は、風音様。この国の王女様だ。
体が弱く、ほとんどこの城から出ることがない為、カップを受け取ったその腕は折れそうなほど細く肌の色は雪のように真っ白だ。
城の中心から離れた離宮で過ごす風音様の健康を管理するのも薬師である僕の仕事だ。その為、一日一回こうしてお茶を差し出すのが僕の日課の一つになっていた。
「ふふ、やっぱり神楽ちゃんの入れてくれる飲み物が一番おいしいわ」
ふんわりとした笑顔を向けられ、自然と僕も顔が緩んだ。
「そんな大袈裟です、風音様」
褒めてもらうことに慣れていない為、僕は気恥ずかしげに小声で答えた。
「ふふっ、ほんとのこと言っているだけよ」
そんな僕の表情に風音様が優しい笑顔を浮かべた時、部屋の扉が開く音が聞こえると、背中から温かい温もりと柑橘系の匂いに包まれた。
耳元で、透き通った声が僕の耳をくすぐった。
「ただいま、神楽」
僕は顔を後ろに向け、
「お仕事終わったんですか?お疲れ様です、呉羽様」
僕の目の前には、端整な顔立ちがあった。薄い茶色の瞳の奥には柔らかな色を滲ませ、形のよい唇は笑みの形を作っていた。
女性に受けが良いその甘い顔立ちだけど、皇子という身分もあってか、毅然とした雰囲気を滲ませていた。
「ああ、神楽に早く会いたいから終わらしてきた」
この国には側室の風音様の子供である呉羽様を含め何人か子供がいるけど、そのなかでも男子は呉羽ただ一人で後継ぎとして有力候補である。男子ということだけじゃなく、文武両道で、行動力もあるため実力においても家臣から認められている。
だから、その分誰よりも忙しい呉羽の体が心配になることがある。
でも、呉羽の顔色見ると大丈夫そうかな。
僕を包み込むように抱きしめていた呉羽は首に埋めていた顔を上げた。眼を柔らかく細め、長く形のよい指でそっと僕の髪に触れると、軽く溜息を吐いた。
「はぁ……、神楽の栗色の髪好きだったのに、どうして銀髪になってしまったのだろうね……」
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