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終焉が奏でる始まりの歌
10(呉羽side)
城のある一室では、数人が集まってひそやかな声で話し合いが行われていた。


「来月、収穫祭を行いますが、今年は100年に一度の祭りにあたります。神に捧げる花嫁……、生贄を選ぶ必要がありますな」


国では、毎年豊作を願って祭りが開かれる。その中で、100年に一度、国や村の若い娘の中から神に捧げる花嫁が選ばれる。


神に捧げられる花嫁は神嫁と呼ばれ、輿に乗って森の奥へと向かう。差し出された後、花嫁がどのような運命をたどったか誰一人知る者はいなかった。


なぜなら、誰一人戻ってくるものはいなかったからだ。


「ああ、適当に何人かの娘を見つくろってくれ」


僕は抑揚のない声で、家臣に向かって告げた。


「呉羽様」


そう言って前に進み出たのは、国の祭祀を務める者だった。


「何だ?」


「ご神託に、神嫁様の候補が浮かび上がりました。私から、その者を勧めたいと思っているのですがよろしいでしょうか?」


「その者は?」


「神楽と申します。少年ではありますが、愛くるしい容姿、そして見事な銀色の髪を持つ者。神に捧げるのにふさわしいかと存じます。これほどの人物は、他に存在しません」


その名を聞いて、僕の表情が一瞬にして凍った。言葉を発さない僕を取り囲み、大臣たちは良い提案だとここぞとばかりに騒ぎだした。


「少年か……。若い娘を差し出すよりいいかもしれんな」


「そうですね。それに確か神楽という少年、確か両親はなく身寄りがないというじゃないか。まさにうってつけですな」


嬉々として離す大臣たちの言葉を遮る様にして、僕の大きな怒号が飛んだ。


「黙れ!!!」


騒がしかった場が一瞬にして静まり返った。僕の周囲の空気が凍りついた。


「神楽を神嫁に?冗談じゃない、そんなの許さないよ。生贄なら若い娘でも差し出せばいい。いくらでもいるだろ」


僕は顔を俯き加減に言葉を発したため、表情は窺い知れないが、感情が欠落したような声色の低さから胸の内の怒りの強さが知れた。鋭い眼光と冷ややかな雰囲気に何人かがびくりと肩を震わせていた。


一呼吸おいて、家臣の一人が震える声で口を開いた。


「皇子、これは避けられないのです。信託に出た以上神が神楽という者を切望しているのです。これに逆らえば、わが国はどんな厄災に見舞われることか……。それに神楽という者、聞けば男。しかもただの薬師ではありませんか。それほど価値があるものではないでしょうに……」


言葉を言いきる前に息途絶え倒れ込んだ。僕が、腰にあった剣で切ったからだった。


絨毯に赤い液体が広がっていく。


「神楽を生贄になんてさせない」


鋭い眼差しで睨む僕の周りを兵士が取り囲んだ。


「何をする、お前ら!」


兵士に取り押さえられ、くぐもった声を発した。


「陛下の許可は頂いております。逆らうようなら捕えろと……」


「離せっ。神楽の下に行くんだ!神楽を誰にも渡すものか。神楽は僕のものだ!」


「呉羽様、申し訳ありません!」


その言葉を最後に、鳩尾に深い衝撃が走り、僕の意識は途絶えた。

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