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終焉が奏でる始まりの歌
9(呉羽side)
柔らかい真っ白なシーツの上、神楽は深い眠りについていた。いつも頬を赤く染めていた愛らしい顔は、青白く生気がなかった。


痛みが強いのか、時折、唇をきつく噛みしめ呻き、苦しそうに熱い息を吐いていた。


僕はそんな状態の神楽の手を握りしめ、唇を噛みしめてただ黙って凝視することしかできない。


「神楽……」


この場にいる誰よりも憔悴した顔で、神楽の名前を呟いた。視線は神楽を見つめたまま、医師へと静かに声をかけた。


「神楽の、状態は?」


「はい…。神楽様は、思ったより傷が深く危険な状態です。できる限り手は尽くしたのですが、おそらく今夜が山になるかと……」


医師が言葉を言い終わらないうちに物が激しく割れる音が部屋に響いた。


僕は氷のような冷たい視線で医師を見据えた。冷たい雰囲気を纏った僕は人々の前で見せる温厚な笑顔とは程遠く、医師達を震え上がらせた。


冷静沈着、穏やかで表情を崩すことが無いといわれる皇子としての姿はそこにはなく、一人の人間として心乱した姿を見せるのは初めてのことだった。


「お前達、もし神楽にもしものことがあったら、お前らだけでなくその家族も皆殺しにしてやる。覚悟しておけ」


視線だけで人一人殺せそうな冷たい眼差しを向けると、医師は体を震わせた。


「うっ……」


「神楽!」


僕の呼びかけに、神楽の綺麗な菫色の瞳が開かれた。最初定まらなかった焦点は徐々に取り戻し、僕の顔を、そっと瞳の中に映した。


意識を取り戻し、掠れた声で僕の名前を口にした神楽に少しの安堵を覚え、柔らかい銀色の髪の毛をそっと撫でた。
髪を撫でながら、頬へと手を這わした。僕の手から神楽の温もりが伝わる。


僕は愛しい相手の名前を呼び、小さな笑みを見せた。


安堵のため息とともに、ほどなくして驚愕の事実を知ることになる。


「神楽……、傷が治っている?」

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