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終焉が奏でる始まりの歌
幼き日の思い出
まだ、両親が健在だった、僕の幼き頃。


晴れた青空の下僕が向かったのは、村から遠く離れた僕の秘密の森。薬草と取るため幾度となく訪れるその森は誰も近寄ろうとする者がいない、否できなかった。


森に入ったとしても、村の入り口に引き戻される。いわゆる迷いの森だから。ただ、不思議なことにそれに当てはまらないものがただ一人いた。


ゆっくりとした足取りで鬱蒼とした森を抜けると、川のせせらぎと、新緑の香り、絨毯のように咲き乱れる色とりどりの花が僕を出迎えた。


「相変わらず、綺麗だなぁ」


青く透き通った泉をその場に立ち尽くしたまま目を輝かせて眺めていると、ふいに服の袖をひっぱられた。視線を下に向けると、森の動物達がいた。


動物達は構ってほしいのか甘えるようにしてすり寄る。そんな動物達の可愛らしい仕草に、神楽は頬を緩め優しく撫でた。


薬草の採取だけでなく、綺麗な景色を見たり、森の動物達と戯れたりすることも、安らかなひと時を過ごす大切な時間だ。


理由は分からないけど、自然と神楽の周りには動物が集まって来た。普通の人であればそれはありえない行動だった。


しかし神楽にとっては気にすることではなく、大切な時間だった。同じ年頃の子供達より、この泉で動物達と過ごすことが多く、そのことに対して両親はあまりいい顔はしてなかったけど……。


ふと表情を陰らせた神楽を励ますように、色とりどりの美しい鳥達が僕の頭上を優雅に舞った。その光景を穏やかでゆったりとした気分でしばらく眺めていると、ふいに鳥達が何かを知らせるように鋭い声で鳴くとその場を飛び去って行った。


鳥達の行動を機に、神楽の周りを囲んでいた動物達も一匹一匹と立ち去っていき、最後には僕一人がその場に残された。


辺りが急に不気味に静まり返った。


「どうしたんだろう……」


そう呟いた瞬間、背筋に悪寒が走った。


ねっとりと絡みつくような視線を森の中から感じた。
誰かに見つめられている。そう確信させるほどの強い視線に神楽はさらされていた。


僕は手にした薬草を握りしめ、足早にその場を立ち去った。

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あきゅろす。
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