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少年は荊に捕らわれて(番外編)

「やっぱり旅行、温泉ときたら浴衣だよね」


千沙登さんの声でちらっと隣に立っている流星を見ると、浴衣のすその間から鍛えられた胸板が見え隠れして、色気が増してカッコいい。思わず頬を熱くし、視線をそらした。


でも、一つ気になるのはどうして僕が女物の浴衣だってことだ。


この旅館では、楽しんで着れるように様々なデザインの浴衣が用意されていて、その中から選ぶことができる。だからといって、どうして僕が着なきゃいけないんだろう……。


頬を膨らませて、くいっと流星の浴衣を引っ張った。


「僕も、流星みたいな浴衣がよかった」


「そんなに膨れるな。似合ってるんだからいいじゃねえか」


苦笑した流星にくしゃと髪を撫でられた。


「今日は、無礼講や。じゃんじゃん、飲めや〜」


数々のお酒や新鮮な魚介類と、旬の食材を使った懐石料理がこれでもとばかりにテーブルに所狭しと並べられていた。僕は、お酒飲めないんだよね。


「ひな、お前はお酒飲まなくていいからな」


「うん」


前に一度間違ってお酒を飲んでから、流星からは決してお酒を飲まないよう固く言われている。
あの時は、別に飲もうと思って飲んだわけだじゃないのに。ただ、飲んだ後の記憶がないんだよね。


う〜ん、もしかして、物凄く酒癖が悪かったのかなぁ、……気になるよ。


お互いに食べさせあった後、流星が伊吹さんと話をしている間、千沙登さんが手にグラスを二つ持ってそろりと僕の傍に寄ってきた。


「ひなちゃん、楽しんでる?」


「はい!食事は美味しいし、何よりみんなとこうして楽しく過ごせて嬉しい」


「よかったな!ひなちゃん、これ美味しかったんだけど飲んでみてよ」


可愛い笑顔で千沙登さんから受け取ったグラスの中には、薄い水色の飲み物が入っていた。
僕は千沙登さんに何の疑いもなく「ありがと」と言って、飲んだ。



そこで、僕の記憶は途切れた……


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