堕ちた先には
4
なんとなくいつもと違う教室の雰囲気に気をひかれ、自分の席に向かいながら、会話に耳を傾けた。
「え〜、ショック〜」
「彼女できたんだ…」
女子達の落胆した声を気にすることもなく、煉はゆっくりと微笑んだ。
「ああ、とっても可愛い彼女ができたんだ。名前は秘密だけど、ヒントだけ教えてあげようか…。彼女はこの学校の子でイニシャルはNだよ」
そういうと煉は女子の肩越しに僕を見つめ、口角を釣り上げた。
―渚、僕の彼女になって
―渚、渚、渚……愛してるよ……
昨夜の情事が思い出され、思わず歩みを止めた。
その行動に不審に思ったのか透は僕の顔を覗き込んだ。
「渚、顔色悪いけど大丈夫か?」
眉を下げ、心配そうに見つめる透の手が僕の頭に触れそうになったとき
「渚……おいで……」
僕を呼ぶ声は優しいのに、それでいて威圧感もある声の方向に振り向いた。
「煉……」
視線の先には熱い眼差しで僕を見つめ、ことさら優しく微笑む煉の姿があった。
煉の呼ぶ声によって皆の視線が僕に集まる。
居心地悪いものを感じながら、人混みをかき分けるようにして、ゆっくりと煉の側まで歩きを進めた。
普段、煉と学校で話すことがないため、なぜ呼ばれたのか真意がわからず、戸惑う。
「………なに?」
体を強ばらせ、両手を握りしめ、ぼそりと呟いた。
煉は突然僕の手首を掴み軽く引いたため、胸に倒れ込んだ。
煉は僕の体を膝の上に乗せると、頭をゆっくりと撫でながら、
「煉は俺の彼女知ってるよね……」
その言葉を聞いた瞬間、不安、絶望、焦燥感に襲われた……。
あまり言葉を交わすことないのに……
どうしてこんな時に…
嫌な予感はしたけど……
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