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堕ちた先には

鼻をくすぐるような、温かい匂いに誘われ、渚は眼を覚ました。


眼をこすりながら、頭下に置いてある携帯の時計を見ると時間は午前5時45分を指していた。


隣に透の姿はなかったが、ベッドにはほんのりと温もりが残っていた。


透は……?


渚は、まだぼんやりとする頭でベッドを出たると、匂いを辿りながら台所へと向かった。


「おはよう」


台所に入っていた渚に気付いたのか、エプロンを着けてフライパンを片手に持っていた透は、振り返ると笑顔を浮かべた。


「おはよう……、透」


「朝ご飯、もうすぐできるから、その間に顔を洗ってきな」


透にタオルを貸してもらい、洗面所へと向かう。


まだ、頭がぼんやりするため、眼を覚まそうと手にすくった水を勢いよく何度か顔にかける。タオルで軽く顔を拭いて、鏡に写る自分の顔をじっと見つめた。


昨日、泣いた後、透が冷たいタオルを当ててくれたおかげか、思ったより目元は腫れていなかったことに、ほっとする。


これなら、登校する時には、気付かないほどになるかも。洗顔のお陰で眼は覚め、台所へ戻ると目の前の光景に思わず目を見開いた。


「透…、これ……、みんな透が作ったんだよね……?」


「ああ、朝から渚のために気合いを入れて作ってみました!!」


テーブルの上には、味噌汁、ご飯、卵焼き、焼き鮭、大根と里芋の煮物、漬物と何とも見事な純和風な食事が並べられていた。


僕も、朝、食事を作るけどさすがにここまで見事な食事は用意できない。大体、朝はパンで済ましている。


「じゃあ、食べるか」


渚は透の声にこくりと頷き、向かい合わせに座り、「いただきます」と一言で卵焼きを口に含んだ。


透は、渚の反応が気になるのか、食事に手をつけず渚の顔をじっと見つめ、反応をうかがっていた。


「おいしい……」


顔がほころぶ渚に、透は柔らかい笑みを浮かべ、箸をつけ食べ始めた。


透の家は何度か泊まりに来ていたけど、いつも朝は小母さんの料理を食べていたから、透の手料理を食べる機会はなかった。


顔や勉強、運動だけじゃなく、料理もできるなんて……、しかもそれがとてもおいしい。
もう何もいうことなくすべて文句なしだな―。


食後、渚は作ってもらったお礼にと、食器を洗った。


そのあと、準備を整え、透と肩を並べて学校へと向かった。


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あきゅろす。
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