堕ちた先には 10 「莉……桜……」 やっとのことで絞り出した言葉は、彼女の名前だった。 聞こえるか、聞こえないかの小さな声だったが、莉桜は聞こえたのかゆっくりと顔を渚へと向けた。 他の男性とキスをしながらも表情は変わらなく無表情のまま、視線はまっすぐ渚をとらえていた。 キスの余韻のためか莉桜の頬は、薄く紅潮し、制服はボタンが外れ乱れていた。 「莉桜…、どうして……」 頭が真っ白だ。 突然のことで、いったい何が起こっているのか理解できない。 何をやっているんだ? そいつは、誰? 莉桜は僕の彼女だよね? 聞きたいこと、聞かなきゃいけないことが、たくさんあるはずなのに言葉が出てこないよ。 ただ、思うのは、なぜ?といった疑問ばかり。 立っていられるのも、不思議なくらい足がガタガタと震えていた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |