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堕ちた先には

「え……?あ、あの……」


煉は、渚を正面に見据え、真剣な表情をしたまま黙っている。


どうして、そんな目で僕を見るの?


久しぶりに会っても、目の前にいる彼は、僕の弟に変わりないはず。


なのに……


煉の瞳を見ると、なんだか知らない人に見えて、少し怖かった。


渚は、今まで見たことのない煉の表情に困惑し、言葉を返すことができずに、顔を俯かせたまま体が固まっていた。


耳元で響いた明るい声で重い空気が、打ち消された。同時に、背中に温もりとずしりとした重みを感じた。


「渚の好きな人は、俺だよなぁ―。俺も、渚のこと好きだ―」


「透、いつの間にか起きてたんだ。僕も好きだよ。親友だもんね」


聞きなれた声に渚は頬を緩め、顔だけ後ろを振り返ると、苦笑した透の顔があった。


透は一瞬顔を曇らせ、


「俺は本気なんだけどな……」


とぼそりと呟いたが、透の顔が下に向いていたことと、あまりにも小さな声だったため、渚に届くことはなかった。


「渚、さっきの答えは?」


透と渚のやり取りを見ても、表情を変えず、口を挟まなかった煉が渚を呼ぶ。


渚は煉のほうに顔をむけ、一呼吸置いて答えた。


「好きな人……彼女がいるよ……」

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