堕ちた先には 7 「……煉……」 渚が小さく呟くと煉は視線を合わせ、穏やかに微笑んだ。 煉の顔を見たとき、一瞬体が震える上がるような無表情にみえたけど、今の顔を見ると気のせいだったのかなと思う。 煉にゆっくりとした手つきで髪を撫でられ、渚の頬が緩んだ。 「煉だよね…久しぶり…」 「うん、3年ぶりかな…」 「合わない内に煉変わったね…。なんだか、格好良くなった」 思わず拗ねた口調になる。 中学生の頃は、僕とあまり身長は変わらなかったのに、僕より大きくなった。 しかも、僕の場合、平均身長以下だし…。成績、運動も平均だ。 それに加え、母に似た女っぽい顔立ち。 渚とは対照的に、煉は端正な顔立ちをした父親に似ている男前だ。 本当は、僕が兄なのに、逆に見られてしまうんじゃないか…。 それよりも、兄弟と信じてもらえないかも。 なんだか、軽く落ち込む。 共通点は髪と目の色ぐらいじゃないか…。 双子といっても、二卵性だから多少なりとも、違う部分は出るかもしれない。でも、これではあまりにも不公平ではないかと少し悲しくなってしまう。 「ふふっ…、ありがと。渚は昔と変わらず可愛いよ」 「どうせ身長は平均以下ですよ!でも、これから伸びるからね!」 「はいはい、わかりました」 煉の笑い声が教室に響いた。 煉の温もりと柑橘系の香りが、僕の忘れている何かを思い起こしそうな気がした。 遠い記憶。 懐かしくて、切なくて、それでいて痛み、恐怖。 一瞬何か、脳裏によぎったが 第3者の声でさえぎられた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |