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禍福は糾える縄の如し
第二ボタン


立海大附属中学校 卒業式と書かれた看板を見てため息をつく。

卒業式って怒涛の告白ラッシュだ。真面目にピンクなのは桜だけで十分だと思う。私はというと………

「先輩、卒業おめでとうございます」

無難に部活の先輩たちのお祝いをしていた。この人たちは本当に素晴らしかった。なんたって優しかったし。

「そういえば副部長いないんですけどどうしたんですか?」

「あー、なんか風邪だって」

副部長も今日に限って風邪か。色紙とか超真面目に書いてたのに。

「先輩バスケ部の試合の時の写真写真部の友達から貰っときました」

「ありがとう!!」

「なんでバスケ部の写真?」

「さあ?」

「二人とも知らないの? 先輩はバスケ部の元部長が好きなんだよ」

「「マジっすか!?」」

「マジです」

「紫ったらそんな大声で話すなんて恥ずかしいでしょ!!」

「すいませーん。でもこれから告白するんですよね」

「…………まあね」

「頑張って下さい」

「応援してます」

「雪花 、麗ありがとう。紫はあんなんだけど頑張ってね!!」

「「はいっ」」

「なんであんたら返事してるのよ!!」

仕方ない。今日ばかりは紫先輩ではなく、卒業する先輩の味方なのだ。

「ったく…雪花 も麗も都合いいんだから。先輩、あの人じゃないんですか。先輩の好きな人」

「!! 行ってくる。じゃあね。たまに遊びに行くかもしれないから!!」

走り去っていく先輩は頬を紅くして可愛かった。いいよね。ああいうの。女の子らしくってさ。私は中3の時あんなに可愛かっただろうか。いや、ないな。

「雪花 ちゃん何アンニュイな顔してんのさ。俺らの門出祝ってくれないの?」

「京一郎さんいきなり現れるのやめてくれます?」

「いや、こう現れた方が面白くない?」

「全然そんなことありません」

本当にこの人真田君と兄弟か?全然似てないんだけど。

「京一郎先輩相変わらず雪花 大好きですね……ってボタンどころかネクタイまで取られてるじゃないですか!!」

「真田先輩凄まじいわね。さすが全国区の剣道部の元主将」

「ボタンは全部女子に取られたけど『俺のネクタイ壊れたんで下さい』ってネクタイは後輩に取られた」

「「「…………ドンマイです」」」

「3人声を揃えて憐れむようにして見ない!!」

なんとなく最後に可哀想になるのは真田君と同じだと思う。これが血だというのならなんとも可哀想な話だ。

「それより京一郎さん何しに来たんですか?」

「ああ、これ渡しに来たんだ」

私の手には制服のボタン。これ誰の?

「最初から死守してた俺の第二ボタン。雪花 ちゃん貰ってよ」

「はい………?」

「雪花 すごいわよ!!」

紫先輩頭揺らしすぎです。

「これで雪花 ちゃんから『実は私先輩が…』みたいな展開だったらいいんだけど」

「それはないです」

「雪花 ちゃん早っ!! 俺の渾身の一言をコンマ数秒で返すなんて…………やっぱり雪花 ちゃん最高だ!!」

「いまいちよく分かんないんですけど……」

「分からなくていいんだよ。今はね」

「?」

「じゃあね。また会いに来るよ」

ヒラヒラと手を振って去って行った京一郎さん。やっぱりあの人謎だ。謎すぎる。





「やっぱりか……」

第二ボタンを彼女に押し付けてきた。他のボタンを取られようがネクタイを取られようが第二ボタンだけは死守した。どうしても彼女に貰ってほしかったから。何か反応してくれるかもしれないと期待したが彼女はいつもと何も変わらなかった。

「兄上、ご卒業おめでとうございます」

「固えよ。そこは普通に『お兄ちゃん卒業おめでとう』でいいんだって」

自分で言ってなんだがあれだ…こいつには似合わねえ。弦一郎悪かった。だからそんな困ったように笑うなァァァ!! そういえばこいつから見た雪花 ちゃんってどんなんだ?

「なあ弦一郎、お前から見た雪花 ちゃんはどんな感じだ?」

「結城ですか? そうですね…あの蓮二と競えるほどの学力は凄いと思います。それに校則もよく守っていてしっかりした奴ですね」

こいつに聞いた俺が間違いだった。先生のコメントかよ!!

「そういえば雪花 ちゃんって兄弟いるの?」

「いえ、一人っ子だと聞きました。だから兄弟に憧れると」

「そうか…じゃあ俺が雪花 ちゃんの兄ポジションになろう。お前も兄ちゃん取られたからって泣くなよ」

「兄上どういうことですか!?」

「先帰ってるからな」

「兄上ェェェェェ!?」

俺は俺で彼女の近くにいれるポジションでいよう。それが俺が出した答えだ。



第二ボタン 了






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あきゅろす。
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