禍福は糾える縄の如し
存続危機!?
「雪花 、大事な話があるの」
妙に真面目な顔をして語る紫先輩に緊張する。
「あのね、テニス部の記事を書いて欲しいの。お願い」
「……はい!?」
テニス部の記事って春に書いた奴だよね?
「あの記事がテニス部ファンクラブに好評でね。ファンクラブ会長がまた書いて欲しいって言ってきたのよ」
「反対です!! あれ特集じゃなかったんですか?」
「まあ、事情があるのよ。聞きなさい。まず、今現在の新聞部の部員は私、副部長、麗、雪花 の4人。で、あと、少しで3年生の私と副部長は引退するんだけど部活の必要最低人数って何人か知ってる?」
「3人ですよね」
「そう、3人以下は部としては認められない。そうなるといろいろときついし、部室だってなくなるかもしれない。そうなると雪花 と麗だけじゃ足りない。ファンクラブはそこに目をつけたの。もし、テニス部の記事を毎回記事に載せてくれるならファンクラブの何人かを新聞部に貸してくれるって言ってるのよ」
「交換条件ってやつですね……」
「でも、雪花 がどうしても嫌っていうなら止めない。麗とも話し合うし、もしかしたら誰か入ってくれるかもしれないし」
「その必要はありません。やりますからそのテニス部の記事ってやつ。今さら誰か入ってくれる見込みもないし、話し合ったところで麗は私に遠慮して特に何も言わないと思うので。こうなったらテニス部ファンクラブに協力してもらえるんだから使わない手はないですよね」
「雪花 ……」
「だからちょっとテニス部ファンクラブ会長に挨拶したいので会長さんのクラスと名前教えてくれませんか?」
「3年A組、唐橋智香」
「ありがとうございます。明日にでも挨拶に行ってきますね」
翌日
3年A組
「唐橋智香先輩いますか?」
「唐橋智香は私だけど。貴女は?」
「新聞部2年の結城雪花 です」
「貴女が紫さんの言ってた人ね。話は承諾していただけたかしら」
「はい。背に腹は変えられませんから。だからこちらのこともよろしくお願いします」
「もちろん約束は守らせてもらうわ」
「そうですか。良かったです」
「それにしても紫さんから貴女はこの話を受けない可能性が高いと聞いていたのだけれど。どういった心境なのかしら」
「どういったって…さっきも言ったでしょう。背に腹は変えられないって。私が新聞部を潰すわけにはいかないんです。だから私達を使うんだからそれに見あったことはしてもらいますよ。それでは」
「………予想以上だわ」
「雪花 、3年A組の唐橋智香に喧嘩を売ったらしいな」
教室に帰ってそうそう柳君に真剣な顔で言われた。
「……どこからそんな情報を?」
びっくりしてジュースのパック握り潰しちゃったじゃんか。
「その反応だと本当のようだな。半信半疑だったのだが」
「違う違う。ただ挨拶してきただけ」
「目撃情報によると険しい顔で話しているかと思えば、雪花 が立ち去った後で唐橋先輩は呆気にとられたように立っていたらしいがどういうことだ」
「だれからの目撃情報!?」
「個人情報保護法というのは知っているか? あれが働いている限りは情報提示はできない」
「他人の個人情報持っている君に言われたくないんだけど」
「話がそれたが実際どうなんだ?」
「だから挨拶しただけだって。これから協力してもらうからね」
「その協力とはおおかた新聞部の存続
と、いったところか?」
「分かってるじゃない。分かりきってること聞くとか柳君性格良くないよね」
「そうか? 周りからはあまりそう言われないな。それにあのテニス部の中ではまともな方だと思うが」
「ジャッカル君とか柳生君とかの方が性格良いよ」
「ジャッカルは……真性のお人好しだからな。あれに勝てる奴はそうそういないだろう。しかし柳生はそうでもない。お前が思っているようなひとの良い紳士ではない。あれでもペテン師のパートナーだ。ただのお人好しで終わるはずがない」
「随分な言い様だね」
「本当のことだからな。お前も性格良くはないだろう」
「柳君ほどじゃないよ」
二人で顔を見合わせて笑う。そうしていることに心地良さを感じる。なんかおかしいな。精神だけでいうなら半分以下しか人生経験の無い人なのに何か心地良い。なんか柳君狡いな。
「雪花 ーー!!」
「グアッ」
「紫先輩から話聞いたよ!! ってなんかぐったりしてない!? 雪花 ーー!!」
「麗が突進してきたことが原因の確率100%」
「麗、痛い」
「あ、ごめんごめん」
やっと離れてくれた。いい加減自分の力を理解してくれ。
「雪花 、新聞部のこと無理しなくていいんだよ」
「無理してない。私は新聞部を廃部にしたくないの。絶対に。使えるんならファングラブだろうがなんだろうが使うしね」
「そんなことも言えるんだな」
柳君は軽く笑って言った。
「雪花 が勉強以外で何かに必死になっているのは初めて見たから驚いた」
「驚いたって…全くそんな風には見えないけど」
「驚いてるんだ」
ムニッと私の頬を引っ張る。
「痛い」
最近しなくなったと思ったのに。
「何故か無性に引っ張りたくなってしまった」
「理不尽だ」
「部活に行かなくてはならないな」
「スルーですか」
「なんだかまってほしいのか?」
「違います!!」
「そうか。最後に一つだけ言っておく。無理はするなよ。何かあったら俺を含む周りを頼れ」
それだけ言って教室を出ていった。
(柳やるじゃんかよ……)
「麗……これどういう意味?」
「なんでも一人で頑張るなってこと」
(これは効いたかな)
この時それぞれが何を思っていたことなんて本人以外誰も知らないし、誰も知ろうともしていなかった。
存続危機 了
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