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禍福は糾える縄の如し
固執?


「またB組だったんじゃ」

「あ、そう」

「またブンちゃんと同じクラスだったんじゃ」

「そうなの」

「雪花 ちゃん冷たか……」

「他にどう返事しろって!?」

仁王君が面倒臭いです。教室で一人で泉田先生に頼まれた雑用を済ませていたら突然仁王君乱入。前の席に座って一人で話し始めた。

「何しに来たの?」

「自分で考えんしゃい」

彼はこんな面倒な奴だっただろうか。いや、少なくとも数日前までは普通のなんとなく掴めない感じの仁王君だったはず。
なのに目の前で拗ねてるこいつは誰だ。もし、目の前にいるのが柳生君の姿をしているならそれは柳生君の姿をした仁王君で仁王君が私をからかう為にやっているのだろうと予測がつく。しかし、目の前の人物は仁王君の姿をしている。

「もしかして変装し忘れてるとかじゃないよね?」

「何言っとるんじゃ?」

心底分からないといった顔をしている。

「本当なんなの………」

「雪花 ちゃんは酷いぜよ」

ますます意味が分からない。私が酷い? もしや顔が!? いや、良いとは言えないけど。面と向かって言い出すなんて幸村君じゃあるまいし、私なんかしたのか?

「言わないと分かんないじゃない…………」

参ったな…。拗ねた子供の相手をしてる気分だわ。

「仁王君、私何かした? 何かしたらなら言ってくれないと分からないよ」

子供を諭すように言う。

「じゃって、赤也が………」

「切原君?」

切原君といえば紫先輩から聞き出したらしい私のアドによくメールしてくるようになった。大半はどうでもいいことだけど。

「赤也が雪花 ちゃんのこといつも話しちょる。それが気に入らん」

なんだその理由は。訳分かんないし、何より理不尽でしょ。理不尽の代表みたいな二人だって言ったことがないことをまさか仁王君が言い出すなんて………。それに私じゃなくて切原君に言ってくれないとどうにもならない問題だよ。ちょっと待てよ…。切原君が私のこと話すから機嫌悪いんだよね。ということは………

「言いたいことは分かった。気づかなくてごめんね」

「雪花 ちゃん!! じゃあ………」

「まさか仁王君に嫌われてるとは…」

いや、自分が好かれる人種なんて思ってないよ。けど、今まで接してきて悪意みたいなものは感じられなかったから。友達だと思ってたのに。早い話目の前から消えてほしいとかそんなんでしょ。嫌われてるなら関わらないのが一番。人間関係なんてそんなもん。

「ちょ、ちょっと待ちんしゃい!! 誤解じゃ!! 俺は雪花 ちゃんのこと嫌っちょらん!!」

「え?」

マジですか?

「嫌いならわざわざ関わらないじゃろ。本当妙なところで天然ナリ……」

「じゃあ何で切原君が私のこと話すのが嫌なの?」

「大方お前が会ったばっかりの切原と仲良いのに嫉妬してんだろ。そうだろ仁王?」

「泉田先生!!」

「結城にしちゃ仕事遅いと思えば仁王が絡んでたんだな」

そういえば先生に仕事頼まれてたんだ。

「それより仁王、どうだ? 俺の言ってること当たってるだろ」



「…………赤也は会ったばっかりなんに自分の方が雪花 ちゃんと仲良いって言うのが気に入らないんじゃ!!」

子供か!!

「最近はメールしても返事が素っ気ないナリ」

「それはテスト前だったからだよ」

「テニス部の練習見に来てくれないナリ」

「取材以外でテニス部の練習見に行ったことないよ」

「最近話聞いてくれなかったナリ」

「聞いてるでしょ。今」

「雪花 ちゃんは俺のこと嫌いじゃなか?」

「嫌いじゃないよ。大切な友達だって」

本当に。仁王君は特に嫌いになる要素は今のところない。

「仁王君、探しましたよ。こんなところに居たんですね」

「柳生……」

「あからさまに嫌そうな顔しないで下さい。仁王君がサボっているので真田君と幸村君がご立腹です」

「それを聞いたらますます行くわけにはいかんぜよ」

「行かないと明日の練習が3倍になるかもしれませんが今行けば2倍で
許してもらえるかもしれません」

そこから無言でテニスコートへダッシュしだした仁王君に少し笑ってしまったが、幸村君の恐ろしさと真田君の鉄拳制裁を思えばあのダッシュも頷ける。

「雪花 さん」

「何? 柳生君」

「仁王君は本当は子供っぽく独占欲もそこそこ強いんです。しかし、外見からそのように見られない傾向があり、彼もそのように振る舞って、限られた相手にしか本当の自分を見せません。…雪花 さん、仁王君のことよろしくお願いします」

「いや、よろしくされても困るんだけど。でも、友達にはかわりないからこれからも今まで通りだよ」

「ありがとうございます」

「仁王君は良い友達を持ったね」

「そんなことありませんよ。そろそろ私も行かないと怒られてしまいますね。ではアデュー」

柳生君常識人っぽいのにあの挨拶普段から使ってるのか。試合の中だけじゃないんだね。

「結城すごいなー」

「いきなりなんなんですか泉田先生」

「仁王になつかれてるし今の話じゃ切原もだろ? それに幸村も柳もお前のこと気に入ってるしな」

「先生その考え間違ってると思います。幸村君と柳君はありえません」

「…お前って惜しいよな」

「何がですか」

「いや、なんでもない。作業続けてくれ」

「このくらい自分で片付けてください」

「とか言いつつほとんど終わらせてくれてるから結城は良い奴だよな」

「本当暇なら自分でやって下さいよ」

「教師って忙しいんだ。知ってたか?」

「先生を見てるとそう思えないから不思議ですよね」

「ようは俺、暇人に見られてるのか?」

「違うんですか?」

「違うから!!」

その後は教師の忙しさについて延々と聞かされた。今日は絶対厄日だ。

「………というわけだ。あまり教師はおすすめできない」

「安心してください。教師になる気はないので」

「いや、来年あたりは教師目指してるかもしれないぞ」

「なんでですか?」

「担任が俺だから」

「意味分かんないです」

「『先生を見てたら~』とかよくあるだろ。学園ものの漫画では数年後に主人公が教師になってたとかよくあるだろ」

「漫画の中では、ですけどね」

現実ではそんなことありえないのだ。
あ、一応ここ漫画の世界か…。でも、コマの外。超人テニスは普通に怖いし。それに…私は主人公でもなんでもない。どこにでもいるような中学生なんだよ。ちょっと普通と外れてるところはあったとしてもね。超人テニスはできないし、何か特別な力を持っているわけでもない。しいて言うなら少し勉強ができるくらい。

「俺、結城は主人公っぽいと思うぞ」

「どこがですか!?」

主人公は絶対的に何か持っていなきゃいけないところを私は何も持っていない。

「人を惹き付けるところ」

「人を……?」

「そう。それって大事だと思うんだ。結城はまだ自分の良いところに気づいてないんだな。だけどいつか気づいてやれよ。そうじゃないと報われない奴らがいるからな」

「?」

どういうことだろう。

「まだ大丈夫だ。いつか、な」

じゃ、残りよろしくと言って去っていく先生にこれくらい自分でやれよと心の中で悪態をつきながら作業をすすめた。

「人を惹き付ける…か」

その言葉は誰に言うわけでもなく誰にも聞かれずに消えていったのだった。




その頃の仁王君


「仁王は明日の練習3倍だ」

部長から明日の練習メニューの追加を言い渡されていた。

「柳生…謀ったじゃろ」

「私はあくまで予想を言っただけですので」

「…………エセ紳士」

「仁王君っ!?」




固執? 了





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