禍福は糾える縄の如し 柳君とお出掛け 日曜日 9:40 約束の時間まであと、20分。大丈夫だろうと思っていたら柳君は既に来ていました。 「柳君早くない?」 「そこは『遅くなってごめんなさい。待った?』と言うところだろう」 「残念ながらまだ約束の時間まで20分もあるから遅くなってはいないの」 「最初から良いデータを取らせてもらった」 何、今のやり取りでデータ取れたの!? 「では、行くか」 「どこに?」 「ついてくれば分かる」 そう言ってスタスタと進む柳君。 「ちょっとちょっと待って!!」 今日歩くのやけに速くない? これ以上離れたらはぐれそうなんですけど。 「すまない。ならばこれでいいか?」 柳君と私の手が繋がれる。確かにこれならはぐれることはなさそうだけど。 「なんか母親に手をひかれる子供の心境?」 「誰が母親だ」 ベシッと頭を叩かれた。本当に柳君は容赦ないよね。 そうして話してるうちに着いたのは……… 「文学館?」 確か今、夏目漱石展やってるんだよね。 「中学生2枚」 「なんで2人分払おうとしてるの」 「こういう場所では男が払うのが普通だ」 「払ってもらったんじゃペナルティーにならないじゃん」 「ペナルティーなら大人しくしておけ」 「…………………」 それ出されたら黙るしかないよね。 中の展示品は興味深いものばかりだった。元々、私達の得意科目が文系ということもあり、私としてはけっこう楽しかった。 「そろそろ昼だな。どこか行くか」 「そうだね。近くはマ〇クとかしかないけどそれでいい?」 「ああ」 ということで近くのマ〇クへ入ってお昼を食べる。 「なんか柳君がファストフード食べてるのって新鮮」 「そうか?」 「うん。というかあんまりそういうのを食べてるイメージがない」 「確かに薄味のほうが好みだからな。率先して食べることはしない」 「じゃあ、今日も別のもののほうが良かったんじゃ……」 「別にこれはこれで構わない」 いいのかよ。まあ、でなきゃここに来てないか。 「この後どこか行きたいところはあるか?」 「私はないよ。それより柳君はないの?」 「そうだな。本屋へ行っていいか? 好きな作家の新作が昨日出た」 「OK。ここからだとそこそこ大きい本屋あるよね。そこ行こうか」 in 本屋 柳君は小説を買いに行ったので私もそこら辺を見て回る。ふと、漫画コーナーで立ち止まってしまった。ワンピースや銀魂など前の世界でも人気のあったものが並ぶなか当然テニプリはない。全42巻、主人公リョーマとリョーマの通う青春学園のテニス部が主体の物語。青学は地区大会から全国大会までずっと勝ち続けた。立海の全国三連覇は達成出来ず……だったはず。………立海が優勝しないかな…。だってみんなあんなに頑張ってるのに。贔屓目かもしれないけどここにいて本当に思っていることだった。 そういえば私の存在はレギュラーなんだろうか、イレギュラーなんだろうか。まぁ、この世界に関する知識がある時点で普通ではないにしろ私はあの原作の中に含まれていた存在だったのだろうか。はたまた、間違えて混ざってしまったのか。……考えても無駄だ。全てはなるようにしかならないのだから。 「どうかしたか?」 「柳君いつから居たの?」 「かなり前からいたのだが、ずっと考え込んでいて動く様子がなかったのでデータを取っていた」 「また、データ!!」 柳君がデータマンなのは分かるけど絶対いらない情報入ってる。でなきゃこんなところで私のデータをとったりしないでしょ。 「お前でもそんな風に考えこむことがあるんだな」 「え? あ、うん。たまには」 「何について考えていたんだ?」 「あー、これ何巻まで読んだっけかなって」 目の前にある漫画をとって見せる。とっさに出た嘘だけど、別にバレてないよね? 「…そうか。この新巻が出たのは1ヶ月と12日前だな」 「よく覚えてるね。読んでるの?」 この本少女漫画なんだけど。しかもけっこうベタな展開の。もしかしてこれ読んで何かしらのデータをとってるのかな。漫画片手にデータを取ってるところを思い浮かべると笑える。「この後修羅場になる確率83%」とかね。 「何笑ってるんだ」 「別に…」 「まだ懲りてないようだな」 「ふみまふぇん…(すみません…)」 だから柳君は捻り方とかもろもろ容赦がないから痛いんだって!! さすがに学校じゃないからすぐに離してくれたけどさ。 「お前は頭は良いが学習能力が0だな」 確かに前も同じようなことあったな………。 ということは私、進歩無し!? 「そんな馬鹿な…!?」 「馬鹿はお前だ」 「やっぱり酷いね柳君☆」 「(これ以上は手に負えないな)もういい…送るから帰るぞ。きっと疲れているんだろう」 そうだ。全て疲れのせいだと思いたい。 帰り道並んで歩くと終始自分が見上げながら話してることに気づいた。 あれ? こんなに背の高さ違ったっけ? 「柳君背伸びた?」 「春から考えたらかなり伸びたな」 やっぱり。目の高さに来る位置が違うと思った。でもよく考えてみたら男子中学生って成長期真っ盛り。背なんて伸びて当たり前か。でも……… 「なんか負けてる気がする」 「何がだ」 「いつの間にか背も高くなってるし、テストも首席で入ったのは私だったのにこの前のテストでは負けちゃうし。全体的に負けてる気がする」 「テストはお前のせいだとしても背は仕方ないだろう」 「なんかそういうのって悔しいな………」 自分ではどうにもできない。ものすごいもどかしい。 「お前は負けず嫌いだな」 頭の上に手が乗せられる。 これは……………… 「柳君、子供扱いしてない?」 「お前が悔しがる確率88%」 「柳君のバカ」 「それは次のテストで俺に勝ってから言うんだな」 テストで負けているので何も言い返せない。 「絶対次のテストで勝ってやるんだから!!」 ビシッと柳君を指して宣言する。ちょっとあれだけどこれくらいやって自分にプレッシャーかけておかないと勝てないような気がする。 「かかってこい」 柳君が不敵に笑う。 どうやら私達のテスト対決2年生になっても続くことが決定したようだ。 「じゃあ、私の家ここだから」 家の前に着いて柳君に言う。 「では、新学期に会おう」 「うん。じゃあね」 家の庭にはお母さんが居て柳君は頭を下げていった。 「雪花 あのイケメンあんたの彼氏!?」 「違うよ。クラスの友達」 「でも、二人で出掛けてきたんでしょ」 「そうだけど……」 「それデートじゃない!!」 「あっちはそんなつもりないと思うけど……」 「イケメンとデートなんて凄いわー!!」 お母さんは勝手に一人で盛り上がってるし。もうこうなると放っておくしかない母、結城明日菜(37)だった。 デート? そんなもんじゃない。 だってペナルティーだし。そうだよね? 「あら蓮二お帰りなさい」 「ただいま。姉さん」 「どうだった? デート」 「デートではないです」 「でもクラスの女の子と二人で出掛けたんでしょう? 立派なデートじゃない」 「だから違います」 「変な意地張っちゃって………。面白い子」 だから違うと言っているのに………。第一雪花 はそんな気はないだろう。変なところでバカだからな。そういえば…… 「姉さん、女子が一緒に出掛けてる途中に心ここに在らずの状態だったらどのような状態ですか?」 「心配事があるか他に好きな人でもいるんじゃないの?」 それはいいデータがとれそうだな。 (ふふ…本当に面白い子なんだから) 柳君とお出かけ 了 [*前へ] |