季節シリーズ
35.
「うん、何?」
「初めてあいつが現れた時に言ってた“あの時のように”って・・・・・」
「・・・・母親に見つかってあいつが逃げた時」
「!?あいつ・・・・本当に性根が腐ってる!!」
“俺がいつでも相手にしてやるぜ。あの時のようにな”
あいつの声が一瞬、蘇りまた呼吸が苦しくなるような感覚に陥る。
“真妃”
けれど今朝、聞いたばかりの大輝の声を思い出すとすぐに落ち着いた。
「ごめんね、嫌な事を思い出させちゃって」
あいつへの怒りをまだ少し滲ませながらも謝ってくる石川君に首を横に振って聞いた。
「他には?」
「それだけ」
僕の問いに首を振り返事をした後、彼にいきなりギュッと抱きしめられた。
「辛かったね・・・・1人でよく頑張ったね・・・・」
少し涙声になった石川君に“いいのかな・・・”と思いながら僕も彼の身体に腕をまわす。
「僕、こんなんだよ?それでも友達でいてくれるの?」
「当たり前だろ。何言ってるんだよ。これからは蒼介さんだけじゃなくて俺もいるから・・・・桐原に言えないことも俺達にだったら言えるだろ?
もう、1人で抱え込まないで」
彼の言葉が嬉しかった。
過去を聞いても変わらず友達でいてくれるどころか“1人で抱え込むな”と言ってくれた。
「これから先も俺はずっと友達だよ。何があってもね」
「それはそうと今日は昨日より顔色が良くて安心した」
最後にギュッとした後、身体を離した彼は今度は安心したような表情をみせた。
「心配かけてごめん」
「桐原となにかあった?」
「特に何があったというわけじゃないけど、大輝が今日は休講になったみたいで・・・・久しぶりにゆっくりできたんだ」
「そうかぁ。真妃ちゃんの元気の源だもんね。良かったね」
「うん。って“真妃ちゃん”?」
「実はずっと名前で呼びたかったんだ」
“へへっ”と先ほどとは違い少し照れたような顔で笑う石川君を見る。
「蒼介さんから染矢君が名前呼びは好きじゃないって聞いてたから遠慮していたんだけど・・・・駄目かな?」
僕は名前を呼ばれるのが嫌いだ。元彼との事があって母親に名前の由来を聞いてから嫌いになった。
きっと蒼介さんは僕が名前で呼ばれるのは好きじゃないという事で終わらせてくれていたんだろう。だから僕は何故、名前呼びが嫌いなのか石川君に話した。
「・・・・・・」
彼のショックを受けた顔をみて“やっぱり蒼介さん、理由は言ってなかったんだ”と思った。
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