季節シリーズ
48.
「よう、久しぶり」
後ろからかけられた声に身体が強張る。
「どうして・・・・」
やっとの思いで振り向くと二度と見たくないと思っている奴の顔があった。
「お前がどうしてるのか気になっててな。就職もしたようだな」
「何の用?」
ようやく出せた声が思いのほか震えていなくて安心する。
「別に。お前の会社も判ったし今日は帰るわ」
そう言って歩き出す元彼の背中を見つめ、僕は嫌な予感しかしないことに気持ちが益々落ち込んでいくのを感じた。
その予感はあたった。
「よう」
それから間もなく、会社を出るとあいつが待ち伏せをしていた。無視して歩き出すが「染矢真妃!!」と大きな声でフルネームを呼ばれてしまい
立ち止まらざるをえない。
無言で睨みつけるが気にもとめないようで近づいてくる。
「ちょっと付きあえ」
そう言って脇道に連れて行かれる。周りをキョロキョロと見渡し、周りに人影が無いことを確かめるとニヤッと笑って言った。
「なぁ、金を融通してくれないか」
「・・・・・・」
僕は無言のまま睨み続ける。
「お前の会社に“染矢真紀はゲイで淫乱だ”って流してもいいのか?」
「そんなこと、好きにすればいい」
僕の会社に何を流されたって別に構わない。何を言われても無視すればいいだけのことだし、どうしようもなくなったら紹介してくれた教授には申し訳ないけど
辞めればいい。そう思いそのまま彼の側を通り抜けようとしたら腕を掴まれる。
「そうか。まぁ、そう言うだろうとは思った」
続いて出てきた言葉に僕は立ち止まる。
「お前はそう言うだろうと思ったからお前の彼氏の会社を調べた」
「え?」
「いい会社に勤めてるじゃねえか。さぞ、いい給料を貰ってるんだろ?なのに一緒に暮らしてる奴が淫乱のホモで親にも捨てられるような奴だとばれたら
どうなるんだろうなぁ」
大学時代と同じような言葉で脅される。あの頃は今よりある意味、失うものは少なかった。けれど今は違う。
大輝は仕事に一生懸命で“やりがいがある”とも言っている。そんな彼の足を引っ張るわけにはいかない。
例え、今の僕達の関係が恋人と呼んでいいのか判らない状態であっても。
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