季節シリーズ
37.
「あ〜。ああ見えて拓未は意外と感情の起伏が激しい部分があるんだよ」
数日後、あの日キャンセルになってしまった食事をやり直そうと言ってくれた拓未の言葉に甘えて3人で食事をすることになった。
お店に入ってから蒼介さんが煙草を切らしている事に気づき、拓未が「ついでに欲しかった雑誌も買ってくる」と近くのコンビニに行っている間に名前を呼び合うように
なったことを聞かれ、そのまま話した。
その時に「最初は怒ってるように思えた」という事を伝えるとさっきの言葉になったのだ。
「表情は豊かだなと思った事はあるけど感情の起伏が激しいとは思ったこと無いよ?」
「そうか?」
「何の話?」
買い物に行っていた拓未が戻ってくるなり胡散臭そうな顔で蒼介さんを見る。
「お前は感情の起伏が激しいっていう話」
煙草を受け取りながら何でもないことのように告げる蒼介さんに拓未はプゥっと頬を膨らませる。
「そんなことない」
「うん。僕もそう思うんだけどね。どっちかっていうと表情が豊かでみてて飽きないと思ってる」
「それって褒めてる?」
「もちろん」
「本当かなぁ」
納得していない顔を見せながら蒼介さんの隣に座る拓未が何故だか面白くて僕は笑った。
「やっと笑ったな」
蒼介さんがポツッとだけど嬉しそうに呟く。
「僕、笑ってなかった?」
「そうだな。笑顔になっていても笑っていなかった」
あれから言っていた通り、拓未は出来る限り僕の側にいてくれた。蒼介さんも頻繁に連絡をくれた。
そんな彼らに心配をかけないように自分でも気付かないうちに無理して笑っていたかもしれない。
「拓未のおかげかな」
「俺、何もしてないよ?」
「いや、お前の存在だけで笑える時もある」
「何だよ、それ。蒼介さん、酷い!!」
目の前でじゃれあう2人に僕は改めて深く感謝した。
それからは特に何事も無く時が過ぎていき、やがて僕達は就職活動と卒論に追い立てられる日々を過ごすようになった。
大輝は最初の教え子が無事に希望大学へかなり良い成績で合格したのが口コミで広がり、途切れることなく家庭教師のバイトが入り忙しい日々を過ごしていたのに加え、
就職活動や卒論もこなさなくてはいけなくなり益々忙しくなった。
けれど彼は何とか僕との時間を取るように努力をしてくれている。
そんな大輝の想いを感じ、僕は嬉しくて任されている食事の準備には彼の好物や体調を考えてメニューを決めるなど自分にできることで彼の想いに応えようとした。
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