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季節シリーズ



付き合いだしてしばらくしてようやく家によんで貰えることになって初めて家に行った時は胸が締め付けられた。

その空間には生活感がまるでなかったから。

「お前、ここで1人で生活していたのか?」

「そうだけど?」と言った後、気づいたように付け足した。

「両親の痕跡は徹底的に消したんだ・・」

そう言った真妃の表情は悲しげに笑っていた。

真妃の部屋に案内してもらったがそこも似たようなものだった

「ここに居る事が多いからどうしてもこの部屋は物が増えるんだ」

真妃はそう言ったがある物といえば、机にベッド・本棚くらいで寝る為だけの部屋といった感じだった。

本棚が少し大きめで唯一、存在感を示してはいたがそれでも物が多いうちには入らない。

1人で居ることに慣れてしまい部屋内に漂う空虚感を感じていなさそうな真妃を抱きしめた。

「っちょ、ちょっと苦しい」

真妃はそう言って身を捩ったが力を緩めることなく言った。

「高校を卒業したら一緒に暮らそう」

なかなか頷かない真妃を説得し、条件付きながらも了承してもらい進学した大学は真妃とは別の所だったが高校卒業と同時に同棲をはじめ、
バイトをしたりしたためにすれ違うこともあったが出来る限り、一緒に居る時間をつくるようにしていた。

幸せだった。


互いに希望した職種に無事、就職でき、その祝いを奮発してホテルのディナーで祝った。

俺はその場で真妃に指輪を渡した。

「これから今まで以上にすれ違う事も多くなるだろう。だから真妃が不安にならないようにこれを受け取って欲しい」

この時は真妃も「嬉しい・・」と何度も言い、ボロボロ泣きながら素直に受け取ってくれた。

俺は幸せだった。


帰りがどんなに遅くなっても真妃は起きて待っていた。

それは就職してからも変わらず、自分も仕事があってつらい時もあっただろうに晩ご飯を作り俺が寛げるようにしてくれていた。

俺の中でその幸せがいつしか当たり前になっていった。

付き合う時、同棲を始める時、指輪を受け取ってくれた時そして日常に感じてた幸せを俺は忘れていたんだ。




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あきゅろす。
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