long(ファンタジー)
7.王妃の間にて
ユーリに連れられて部屋に入った佳斗は部屋の中を見渡した。やはりこの部屋も華美になりすぎる事は無く、質の良い調度品が
揃えられている。
佳斗は窓辺に置かれた椅子に近づき、その背に向こうから握ったまま持ってきてしまったスーツをかけようとした。
「ケイト様、宜しければそのお召物はクローゼットに掛けさせていただきますが・・」
背後からそう声をかけられ、手を差し出しているユーリに礼を言いながら渡す。
“翠兄も香華さんも心配してるだろうな・・”
自分の事を可愛がってくれている人達の事を考えると自然と表情が曇る。
“向こうに帰れないのかな・・”
こちらに来れたのなら向こうにも帰れるのではないか。
そう思いぼんやりと窓の外を眺める佳斗にユーリはそっと溜息を吐いた。
「何かご入り用の物がありますか?あと、お着替えはなさいますか?」
窓辺の椅子を勧めお茶の準備をしながら聞いてくるユーリに佳斗はハッとして我に返った。
“食事の時にでも聞いてみよう。それまではどうしようもないし、ちょっとでも情報を仕入れないと・・
まぁ、この人を含め今まで会った人の中には嫌な感じがする人はいないし、帰れない場合のことも考えないとね”
佳斗は初対面の人間が自分や自分が信頼する人物に対し、悪意をもっているかどうか直感で判るようなところがあり、
それはほぼ100%の確率で当たっていた。
シンダイルに来てから出会った人間の中には今のところ、危険そうな人物はいないようだが油断は出来ない。
そう考え、頭を切り替えるように大きく息を吐き、かけられた言葉に対し首を横に振ったあと頭を下げた。
「大丈夫です。それよりユーリさん、さっきはせっかく淹れてくれたお茶を飲まずにいてごめんなさい」
「私ごときに謝罪など・・頭をおあげ下さい。それにアロイス様もおしゃっていましたがそれくらい警戒をされた方が
私どもも安心です。あと、私の事はユーリとお呼び下さい」
慌てて自分の側に来てそう言う彼に佳斗は頭をあげ、お茶を手にとる。
「ありがとう。実はとても喉が渇いてたんです」
やはり緊張のためかひどく喉が渇いていた。
そう言いながら自分の淹れたお茶を口に運ぶ佳斗を見てユーリは嬉しそうに言った。
「これはリラックスできるお茶です。お口に合うといいのですが」
1口、飲んでみるとハーブティのようでどことなく甘い香りもする。
「美味しいです。これ、僕は好きな味ですね」
「それは良かったです」
ニコニコと笑いながらこちらをみている彼に佳斗は思い切って言ってみた。
「あの、ユーリさん。椅子に座ってお茶をしながら話をしませんか?」
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