long(ファンタジー)
36 ・
「ああ、できるだけ早く戻る。叔母上、例の件は了承していただけますか?」
「ええ。私でよろしければ喜んで」
「ありがとうございます。エリアナ、ユーリと共にケイトのことを頼むぞ」
「勿体ないお言葉です。ご安心ください」
「エリアナさん、これから宜しくお願いしますね」
エリアナはレオンからの言葉にまた驚いた様子をみせたと思うと佳斗からも声をかけられ戸惑った表情を見せる。
「エリアナさん、どうかしました?」
「ケイトが“よろしく”と言ったのに驚いたのだろう」
佳斗の問いに歩き出そうとしていたレオンが動きを止め答えた。
「え?でもこれからお世話になるんだし、挨拶するのは当たり前ですよね?」
レオンの言葉に佳斗は不思議そうにしながら更に問いかける。
「私達は世話係から、いわゆる目下の者には自分からは挨拶はするなと教えられてきた。そうしないと威厳が保てないからと。しかし、母上と叔母上の考えは違っていた。
どんな立場であろうと挨拶は人として基本だと教えられたんだよ。私もマリオンもその考えの方がすんなりと納得できたしな。
しかし、貴族達などはそんな事は考えもしないのだろう、横柄な態度をとる者が多い。嘆かわしいことだがな」
レオンは言葉をきると佳斗に聞いた。
「先ほど“挨拶するのは当たり前”だと言ったが、佳斗のご両親の教えなのか?」
「そうです。僕の両親も“挨拶がまともに出来ない人間は基本がなっていない”と言っていました」
そこで佳斗は何を思い出したのか“ふふっ”と笑う。
「いつだったか長兄が母と喧嘩して次の日の朝、“おはよう”を言わなかったことがあるんですが、いきなり母に頬を抓られて・・・・
“一晩過ぎても怒りを引き摺るなんて器が小さい。100万歩譲って引き摺るのは仕方ないとしてもそれで挨拶をしないなんて情けなさすぎる”って」
「ケイトの母上殿はなかなかだな・・・・」
「僕はそれを見て“何があってもちゃんと挨拶が出来る子になろう”って思いましたから」
いまだ、クスクス笑いながら佳斗は続ける。
「その頃は母はまだ仕事に完全には復帰していなくて出来るだけ僕の側に居てくれていた時期だったのでそんな姿を見ることも出来たのですが
今はあまり顔を会わせることもできないくらい忙しくしています。けどその分、会えた時は思い切り愛情表現をしてくれますし大好きなのですが
いまだに必ず“挨拶はちゃんとしていたか?”と聞いてくるんです」
「親にとって子供はいつまでたっても子供にみえてしまうものですわ。まぁ、うちの息子の場合は昔から可愛げの無い子でしたけど。
ジョエルに褒めるところがあるとすればユーリちゃんと結婚してくれたことぐらいかしら」
アンネの言葉にユーリは顔を赤らめ他の人間は皆、一様に苦笑いを浮かべる。
「兄様、皆が待ってるんじゃない?」
気を取り直したようにマリオンが言うとレオンは「そうだったな」と言い、今度は佳斗の手を取りその甲にキスを落とす。
「ケイト、また夕食の時に」
「はい、お待ちしています。あの・・・・お仕事、頑張って下さい」
「ありがとう。では行ってくる」
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