long(ファンタジー)
20. ・
「気づくのが遅れて申し訳ありません。ケイト様、何かお嫌いな物はありますか?」
「ううん、何も無いよ。基本、何でも食べられるけどこちらの世界の食べ物がどんなものか判らないから何かあればすぐに言うよ」
「そうしていただければ助かります。ではすぐに準備いたします」
「ユーリ、僕もケイトと一緒に食べるから」
準備のため部屋を出ようとしたユーリにマリオンが声をかけると「承知いたしました」と頭を下げる彼の側にジョエルが寄り添うように立ち、
「私はレオン様の元へ行ってまいります」と告げ、2人は部屋を後にした。
「はぁ〜」
佳斗はベッドに横になりユーリが出ていったのを確認すると大きく息を吐いた。
皆で話している時は疲れているとは感じていなかったが、情報量が多かったせいか1人になるとやはり疲れを感じる。
「なんていうか・・・・現代と19世紀末の世界が入り混じったみたいだよね」
佳斗は自分が着ている夜着を見ながらぼんやりと呟き、夕食から後の事を思い出した。
部屋を出たユーリはほどなく、2人分の食事をもって戻ってきた。
結論からいえば食べ物はむこうの世界とたいして変わらず、問題なく食べることができマリオンもユーリも安心したような表情をみせた。
王妃の間には浴室もトイレも備え付けられていて、いってみればホテルのようにその部屋を出ること無く済ませられるようになっている。
マリオンによるとどの部屋にもその設備は備えられているとのことだが、やはり佳斗が知っているものよりは少し時代が遡ったような感じを受ける。
レオンハルト達の着ている洋服は19世紀末のヨーロッパを描いた映画で観たようなデザインだったが今、着ている夜着は普段、自分が着ているパジャマのようなデザインだ。
入浴や着替えなどを手伝おうとするユーリに「向こうの世界では自分でするのが当たり前だった」と説明し、何とか1人で済ませることができた。
しかし、電気はまだそこまで発達しているようではなく、照明はあるもののドライヤーのようなものは無い。
佳斗が髪を洗って浴室から出てくるとユーリが鏡の前に連れて行き、オレンジ色の球を持ってきた。
「こちらではこの球に魔力を流して温風を出すのです」
そう言って彼が少し力を込め球を握ると温かい風が出てくる。それを佳斗の髪にあてるようにして乾かしてくれた。
「やっぱり僕には不思議に感じる」
「ケイト様の髪は私が乾かせていただきますね」
「ありがとう」
その後、「ベッドに入るまでは見届ける」と頑として譲らないユーリに佳斗はさっさと諦め、横になった。
「ケイト様、何かあれば呼び鈴を鳴らして下さい。私の部屋に直接、音が届くようになっていますのですぐに参ります」
「うん、わかった」
「今、ご入り用な物はありませんか?」
「大丈夫だよ」
「ではケイト様、ごゆっくりとお休み下さい」
「ありがとう。ユーリも疲れただろ?そっちこそゆっくり休んでね」
「ありがとうございます。では明朝、お目覚めの頃に」
「うん、おやすみ」
「おやすみなさいませ」
このようなやり取りのあと、ユーリが部屋から出ていき佳斗は大きく溜息をついたのだった。
「長い1日だったなぁ・・・・」
呟くように思ったことを口に出す間にも寝心地の良い布団にくるまれ、自然と瞼がおりてくる。
そのまま眠ってしまった佳斗は王の間と繋がっている扉が静かに開き、音も無く入ってきたかと思うとベッドの横に立ち、愛おしそうに自分の頬をそっと
撫でるレオンハルトに気がつくことは無かった。
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