「うん…」
力強く抱き締めてくるダークの腕を、アリスはギュッと握り締める。逞しい腕の中、アリスはダークを見つめて、その横顔に胸がときめくのを感じた。
胸の奥がギュッと締め付けられる。
見返してきたダークの目に、アリスは冷たい雨に打ちのめされながらも、頬が熱くなるのを感じた。
これは、なに…?
再び響き渡る雷鳴に、アリスは震える。その身体を力強く抱き締めてくる腕があった。その腕の中で安心する気持ちを感じた。
この腕の中にいたら、どんな恐ろしい事が起きても大丈夫に思えた。
一体、何故なのか。
答えがすぐそこにあるように思えた。
その時だった。
グラリと、船体が大きく揺れた。
その弾みに、アリスは宙を舞った。ダークの腕に抱き締められたままの格好で、甲板から転がり、手摺りにぶつかって一瞬止まる。
が、しなった手摺りから滑り落ちるように、船の外へ投げ出された。
「きゃぁぁぁぁぁああっ!!」
深く暗い波の中に落ちると思った瞬間、アリスの腕を掴む手があった。
「掴まれ、アリスッ」
ダークだった。手摺りに片手をかけてぶら下がり、もう片方の手でアリスの手を握っていた。
「おじさまっ」
「放すなよ、アリス」
自分も船の外に投げ出された格好で、アリスを助けようと腕を引き上げようとする。
どれ程の腕力の持ち主だと言うのか、アリスが手摺りに手が届くほどまで持ち上げられた。
が、再び船が揺れた。いや、揺れたどころではなった。完全に傾いたのだ。
甲板に出てきていた乗組員達が、波の中に飲み込まれていくのを見た。
アリスも、ダークとともに、真っ黒な荒波へと飲み込まれていった。
冷たく、深い漆黒の闇へ。