銀の森の魔物たち
U-3
「きゃっ」
慌ててフィオーラは背を向けた。その背後に男が近づいてきた。
「風呂ができたぞ」
言ってフィオーラの身体に触れようとするその手から、思わず逃げる。
「あ…あっち向いてて。自分で行くから」
そう言うフィオーラに、男は鼻で笑って返した。
「立てるのか?」
言われてフィオーラは立ち上がろうとして、ガクリと膝が折れ、倒れかけた。そのフィオーラを男の腕が支えた。
「無理をするな。な?」
言って男はフィオーラを抱き上げ、顔を覗き込む。
色素の薄い金の瞳が細められ、フィオーラはその端正な顔立ちに胸が高鳴った。自分の今の姿がひどく恥ずかしく思えて、男の目から隠すようにその首に腕を回して抱きついた。
「お願い、あまり見ないで」
真っ赤になって言うフィオーラを横抱きにして、男はそのままタライの方へ向かった。
「熱かったら言えよ」
男はフィオーラを尻部から湯に浸けた。少ししか湯を張っていない桶の中は、フィオーラのへその深さもなかった。それでも湯は熱く、尻部から伝わる温もりが全身を駆け巡るようだった。
フィオーラは足先と両手と尻だけを湯に浸けた格好で、小さなたらいの中でホッと一息つくことができた。その姿を笑って見やる男の目に気づいて、フィオーラは再び胸を隠す。
「やんっ」
「そんなこと気にしてないで、もっと温まれ」
男はタオルを取り出して湯に浸けると、それをフィオーラの肩に掛けてやる。肩から首へと温もりが伝わった。
「気持ちいいか?」
「うん」
フィオーラはにっこり笑顔で答える。
「そうか」
男は今度は頭からフィオーラを温めるように、濡れたタオルをフィオーラの頭に置く。そしてまたタオルを湯に浸けるのを見て、フィオーラはそのタオルを手に取る。
「もう…自分でできるから」
また目を細めて自分を見つめてくる男に、フィオーラは胸が高鳴るのを覚えて、慌てて背を向ける。
「あ、あの…向こうを向いて…あっ」
フィオーラの言い終わらないうちに、男の手が背後から伸びてきた。そしてフィオーラの胸をやんわりと捕まえた。
「や…っ!」
その手は慣れたものを扱うように、すぐに下から上へとフィオーラの胸を揉み上げ始める。
「遠慮するな。キレイにしてやる」
「やだあ…」
フィオーラはその男の手を止めようとして掴むが、まだ力の良く入らない状態では、更に下へと伸ばされてきた手をどうしようもできなかった。男の手は、フィオーラの股間の隙間へ、するりと入り込んで来た。
「やあんんっ」
上がる声にフィオーラ自身が驚いた。これでは媚びているのも同然だったが、押さえられなかった。
湯の中で股間をまさぐっては蠢く男の指に、喘ぐ声を押さえようとフィオーラは自らの口を塞いだ。
「バカだなぁ…」
男の声が耳元でしたかと思うと、クルリとフィオーラは簡単に身体を回転させられ、男の正面に向かわされた。
たった今までフィオーラの股間をまさぐっていたために濡れている男の手が、フィオーラの頬をそっと撫でる。すぐったくて首を竦めるのを、顎を指先で取られて上を向かされた。
深く、吸い込まれそうな金色の瞳がフィオーラを捕らえた。呪いでも掛けられたかのように、目を逸らすことができなかった。
男の唇がゆっくり近づいてきた。重なる唇に、甘い香りがした。フィオーラはゆっくりと瞼を閉じて、抱き締めてくる男の胸に身体を寄せようとして、ハッとする。
慌てて、逃げるようにして唇を離す。
「濡れちゃうよ…」
男の服を思いやって言った言葉も、男にとっては違った意味を持っていた。
笑いながら、男はゆっくり立ち上がった。
「もう、湯も冷えてきた。身体を拭いて上がれ」
言って、バスタオルをフィオーラの頭からひっかけた。
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!