銀の森の魔物たち
T-1


「あっ、父さーんっ」

 フィオーラは道の向こうに父の姿を見つけて駆け出した。

 秋も終わり、冬が始まったばかりだと言うのに、今夜は真冬のような寒さだった。

「父さん、お帰りなさい」

 フィオーラは父の腕にまとわりついて甘える。そのフィオーラを抱き上げて、バートンは娘にキスをする。

「ただいま、フィオーラ。いい子にしていたか?」

「うんっ」

 にっこり笑顔が浮かぶ。

 昨日よりも今日、今日よりも明日、成長の早いフィオーラはどんどん奇麗に、可愛らしくなっていく。バートンは腕の中の娘にときめく心を押さえ切れない日々を送っていた。










「あのね、今日はね、森の近くの草原で花を摘んだの」

 フィオーラはにっこり笑ってそう報告する。

「花なんてこの寒さじゃ、咲かないだろう」

「うん。でもね、見つけたの。ほら」

 それは草原に咲く花ではなかった。深い森の奥にだけ咲く、深紅の花だった。

「これをどこで!?」

 いきなりバートンはフィオーラの手に握られている花を掴んだ。驚いてフィオーラは目を丸くして父を見返す。それに気づくバートンは、笑顔を作った。

「びっくりしたか? 悪かったな」

 バートンはフィオーラの頭を撫でて抱き寄せた。自分の膝の上に座らせ、その肩を柔らかく撫でる。

 華奢な肩はまだ子どものままで、しかし、薄い布の上からでもはっきり分かる程に成長した膨よかな胸は、この少女が大人に近づいていることを告げていた。

「父さん、お仕事で疲れているの?」

 フィオーラはバートンの顔を覗き込む。ちょこんと首を傾げて見せる様はひどく可愛らしかった。

「いいや、大丈夫だ」

 答えると、フィオーラは笑顔になった。

「良かった。このお花ね、父さんの為に摘んできたの。もらってくれる?」

 鼻先に出され、バートンは笑ってそれを受け取る。そしてまた、フィオーラの頭を撫でる。

「ありがとう、フィオーラ。奇麗な花だな。嬉しいよ」

「ホントに?」

 感謝の言葉を口にする父に、フィオーラは素直に喜ぶ。そんな少女に笑顔を崩さずバートンは言う。

「しかしフィオーラ、森へは行ってはいけないと言っただろう?」

「え?」

 フィオーラはキョトンとして、それからペロリと舌を出す。

「見てたの?」

「いいや。だが、お前の事なら何でも分かる」

「そうなの? すごーい、父さん」

 フィオーラは素直に感心していた。そのフィオーラに、コツンと軽く拳骨を入れる。

「フィオーラ」

 わざと顔を顰めて見せると、ようやく理解できたのか、しゅんとなるフィオーラ。

「ごめんなさい。約束、破っちゃったの」

 しおらしい少女にバートンがそれ以上怒ることができる筈もなかった。

「でもね、いつもお仕事を頑張っている父さんにプレゼントしたかったの。あたし、赤いお花が大好きだから父さんもきっと喜んでくれると思ったんだ」

 思わず抱き締めた。可愛くて可愛くて仕方がなかった。何よりも何よりもいとおしかった。

「だがな、フィオーラ、良く聞きなさい。森はとても危険な場所だ。お前を襲う魔物が大勢いる。もう二度と一人で行くんじゃない。分かったね?」

 強く念押しするバートンに、フィオーラは大きく頷いた。

「よし、いい子だ。今日はもう風呂に入って寝るか」

「うんっ」

 フィオーラは元気に答えて、父の膝の上からポンと飛び降りた。










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