銀の森の魔物たち
序-3
とろりと、フィオーラの股間を伝って流れ落ちる白濁の液体をカナンの手が拭った。その手には、カナンとフィオーラの精液にまみれた赤い種が握られていた。
「何の種か知ってるか?」
首を振るフィオーラに、カナンはニッと笑った。
「次の冬にも俺達が結ばれる約束の種だ。秋には二つの実をつけるんだ」
また首を傾げるフィオーラに、カナンは「まだ知らなくていいよ」と苦笑いを浮かべる。
「とにかく、これを人目につかない所に植えなきゃならない。ここで、ちょっとだけ待っていられるか?」
「やんっ」
立ち上がろうとするカナンの腕を捕まえるフィオーラの小さな手。このまま置いていかれるのかと不安そうな表情だった。
「すぐに戻ってくるよ」
「あたしも行く」
その頭をカナンは柔らかく撫でる。
「いい子だから、大人しくしておいで。そうしたら、今度は美味しい飴棒を嘗めさせてやるから」
「ホントに?」
「ああ」
にっこり笑顔に戻ったフィオーラに、カナンはもう一度口付ける。
「待ってるね。早く帰ってきてね」
そう言って見送ったフィオーラを残して、カナンは森の奥の、さらに奥へと向かて駆け出した。ほんの五分で戻るつもりだった。
カナンの姿が見えなくなると、途端にフィオーラは泣き出した。
「ふぇ…ええん…」
ひとりぼっちになって心細くなり、ポロポロと涙を流し始めた。
「どこ…いっちゃったの…」
カナンを恋しがって呟く。その言葉に答えたのは、別の男の声だった。
「何を泣いている?」
その声にフィオーラは驚いて顔を上げた。
「だぁれ?」
フィオーラは小首を傾げて、じっと男を見つめる。見たことのない男は答えた。
「お前の番の相手だ」
言って、男はフィオーラを抱き上げた。
自分の家へ連れ帰る為に。
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