銀の森の魔物たち
U-4
「あの…」
フィオーラはテーブルの向かいの椅子に座る男を見上げる。
「何とお礼を言ったらいいのか…ありがとうございました」
言って、ペコリと頭を下げた。
脱いだ衣服と下着はこの男が洗って干してくれた。恥ずかしいことに、今は部屋の暖炉のすぐ上にぶら下げられていた。
湯から上がると、男はフィオーラの為に暖かいスープを出してくれた。フィオーラはバスタオルにくるまったままの格好でそのスープをすすった。
「温まったか?」
フィオーラの顔を覗き込んで聞く様は、ひどく優しく思えた。端正な顔立ちにきりりと吊り上がったまなじりは一見して怖そうにも見えるが、フィオーラに向ける態度はそれとは正反対に穏やかだった。
「うんっ」
にっこり笑って返すと、男の方も少し困ったような表情を浮かべて目を逸らす。フィオーラはそんな男に、好感度がグングン上がっていくのを覚えた。
年は幾つだろうか。成人して間もなくのようにも見えるが、ひどく老成しているようにも見える。じっと見ているフィオーラに気づいて、男は嫌そうに眉を寄せる。
「何だ?」
今度はフィオーラが慌てる。
「ううんっ、何でも」
何だか顔が熱くなる。俯いて、上目使いに相手を見ると、男もじっとフィオーラを見ていて、目が合う。
ドキリとする。
これは何? 頭もクラクラしてきたみたいだった。
もしかしたら風邪をひいたのかも知れない。頬が熱かった。鼻も詰まり気味だった。
そんなフィオーラの前に、ふと、マグカップが置かれた。朱の色の濃い、濁った液体が入っていた。
「え?」
「飲んでおけ。酒だ」
「でも…あたしまだ…」
成人していないからと、断ろうとすると、また男と目が合った。
「だったらもっとミルクを濃くしてやる」
言って立ち上がると、戸棚からひとつの瓶を持ち出して蓋を開ける。中に入っているものをスプーンで掬ってフィオーラのカップの中に流し込んだ。
濃いミルクのようだったが、ミルクはこんな風に保存はしないだろう。少し疑問を持ちながらも、スプーンで掻き混ぜられたそれを手に渡された。
「飲めよ」
「…うん」
頷い口をつけた。
「甘い」
それは口当たりの良い果実酒のようだった。何の果実か分からないが、フィオーラの好物になりそうな美味しさだった。
にっこり笑うフィオーラに、男は目だけで笑った。
「全部飲んでいいぞ」
「ありがとう」
フィオーラは一気にそれを飲み干した。カップの中にこびりつく液の最後まで嘗めるようにして飲んだ。
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