夜の街 蝶の舞
U-1


「今帰りか?」

 学校の門を出た所で声をかけられた。アリスはその声にドキリとする。

 昨夜のあの男――ダークと名乗った男だった。ほんの少しだけ触れた唇が一晩中熱かったのを思い出して、アリスは慌てて逃げようとする。その腕を素早く掴まれた。

「逃げなくてもいい。ただ、お前と一緒にいたいだけだ」

 そう言うダークを思わず見上げた。目が合うと、ニヤリと笑ってきた。トクンと、アリスの胸が鳴った。

「屋敷まで送ろう。いいだろう?」

 見つめてくる瞳はまるで魔法のようだった。アリスはダークに従うしか術を知らないかのように、うなずいていた。









 ダークの広い背中を見つめながら、アリスはとぼとぼ歩いた。

 別に会話をするでもなく、時折ダークが振り向く度にアリスは自分の胸が苦しくなっていくのを感じていた。

 どうかしてしまったのかも知れない自分。昨夜会ったばかりの男なのに、こんなにドキドキするなんて。

 男を知らないアリスではなかった。毎晩のように肌を重ね、足を開いて見せる相手がいた。もっと欲しいとねだって、一晩中でも悦楽に酔いしれるのだ。

 そんな自分が、このダークを見た途端、心臓を射貫かれたような衝撃を受け、一瞬にして恋に落ちたようだった。

 だからこそ、尚、胸が苦しい。自分の普段の醜態をダークに知られてしまうことが恥ずかしい。

 否、見て欲しいと思う気持ちも同時に押し寄せてきて、どうにもならない恥ずかしさでいっぱいになった。

 アリスは胸に両手を当てて、大きく息を吸い込むと、小さく吐き出した。その時、ふわりとアリスの肩にダークの腕が触れてきた。

「えっ?」

 手のひらが、アリスの頬に触れてくる。

「あそこで少し休まないか?」

 言ってダークの指さすのは「休憩所」と書かれた建物だった。そこが喫茶店などではなく、ラブホテルだと言うことは、何度も男と入ったことのあるアリスは知っていた。

 が、そんなことは知りもしない顔で答える。

「でも早く帰らないとパパに叱られてしまうの…」

「大丈夫だ、許可はもらってある。な、少しでいいから」

 言って、ダークは僅かに目を細めてアリスを見つめる。

 とくん、とくんと、アリスの胸が高鳴った。

 こんなに近くで見つめられて、息ができなくなりそうだった。

 アリスはそのまま、ダークの胸にしな垂れかかった。

「少し疲れたの。休ませて…」

 ダークが抱き締めてきた。

「側にいて」

 ダークの耳元で呟くように言って、全身の力を抜いた。ダークが倒れかかるアリスを軽く抱き上げ、アリスはその首に腕を絡ませた。






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