夜の街 蝶の舞
T-2


 夕食は客人をもてなすには十分に上質で、美味だった。

 バルドーの娘として紹介された少女アリスは、余り食が進まない様子で俯き気味だった。

 時折ダークを盗み見るように視線を向けて来たが、その度に気配に気づくダークと目が合うと、また俯いてしまった。

 逆にバルドーは上機嫌だった。目の上のタンコブが片付いて、これでやっと中央のボスに顔向けができると思ったのだろう。ひょっとすると中央へ格上げになるかも知れない等と思っているようでもあった。

 しかしダークはそんな事に興味もなく、真っ赤になって俯くアリスにばかり視線を向けていた。

 プルルルプルル…。

 食事が終わって応接室でくつろいでいると、ふと、携帯電話が鳴り出した。バルドーは懐からそれを取り出し、口元を吊り上げた。

「ボスからだ。ちょっと失礼」

 言って、バルドーは立ち上がった。

「お客様がいらっしゃるのに、パパったら…」

 ダークを連れて来た男はとうに帰り、バルドーが携帯電話を手に部屋を出て行くと、たった二人が取り残された。バルドーの消えたドアを見つめて、ふと、自分の方へ視線を向けるダークに気づいてアリスはまた俯いた。

「アリス…」

 名を呼び、ダークは寄り添うようにアリスの隣に腰掛けてきた。アリスは慌てて身を引く。

「きゃっ」

 そのアリスに苦笑する。

「俺を覚えていないのか?」

 問われてアリスはキョトンとする。

「どこかでお会いした?」

「そうか…」

 アリスの言葉にダークは明らかに落胆の色を浮かべてから、ふいに動いた。

 ダークの唇がアリスのそれに触れた。

「ダークさん…?」

 可愛らしく真っ赤になるアリス。

「俺の気持ちだ。今も変わらない」

 言って、抱き締めた。

「きゃっ」

 驚きながらもアリスはダークにされるまま、その腕の中で大人しくされるままにしていた。その耳元でダークが囁く。

「アイシテル…」






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