美少女と野獣
T-2
もっと冷静だったなら――せめて、もう少しだけでも体力が残っていたなら、アリスもこんな気持ちの悪い、化け物でも出そうな屋敷になど入ろうと思わなかったに違いない。が、残念なことにアリスはすっかり身体を疲れさせていた。この屋敷の中で身体を休ませなければ、この雨と雷に打たれて死んでしまうかも知れない。
「どなたか…いませんか?」
アリスは門を抜け、大きな古びた扉を叩いた。外はすっかり宵の闇に隠れていた。ただ、稲光だけが辺りを時折照らしていただけだった。
「お願いです。一晩、泊めていただけませんか?」
アリスは何度も扉を叩いた。もしかしたら廃墟かも知れないと諦めかけた寸前、扉が錆びた音を立てて開かれた。
「誰だ?」
低い男の声がして、暗闇の中に背の高い影が姿を現した。
「森の中で迷ってしまったんです。一晩、泊めてください」
言いながら、アリスはその男を見上げた。
多分、麓の町の誰よりも背が高いのではないかと思われるくらい大柄な男だった。屋敷の中であるにも関わらず深くフードを被り、その顔は伺えなかった。声の感じからは若い男のものに感じられるのだが。
「ここは宿屋ではない。帰れ」
冷たく言い放つ男の声に、アリスは負けじと縋り付く。
「お願いです。一晩だけでいいんです」
その時、稲光がきらめいた。
「きゃっ」
アリスは思わず男に抱きついた。震えるアリスの身体を引きはがし、男はアリスの顎を捕らえ、上を向かせる。
「…アリス…?」
呟くその名に、アリスは目を見張る。
「どうして私の名を…?」
男は問おうとするアリスの腕を掴み、引いた。
「良いだろう、泊めてやる。こっちへ来い」
「え…えっ?」
アリスは男の急変振りに戸惑いながらも、そのまま従った。
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