美少女と野獣
W-2
驚いて飛び出そうとするアリスを片手で制して、野獣はゴルドールの前に立つ。
「君は人ではない。今更アリスと結ばれることができるとでも思っているのかね?」
「アリスはお前の元ら逃げて俺の所へ来た。こいつは俺じゃなきゃ、満足できねぇんだと。諦めろ」
「諦めるのは君の方だ」
言うなり、ゴルドールは剣を振り上げ、野獣に切りかかった。
「きゃああっ」
アリスは野獣に後方へと突き飛ばされた。そのアリスの眼前でゴルドールの剣と野獣がすれ違う。
普段から鍛えてでもいるのか、大きな身体の割りには野獣の動きは敏捷で、ゴルドールの剣など掠りもしなかった。
が、アリスの目には剣から逃げるだけの野獣は、はるかに劣勢に映った。
アリスは立ち上がって、ゴルドールの腕にしがみついた。
「だめっ、やめてっ!」
そのアリスをゴルドールは軽く突き飛ばす。アリスはその弾みで後方の壁に身体をたたきつけられる。
「アリスッ!」
野獣がアリスに気を取られる。と、その隙に剣が振り降ろされた。
サクリと肉の切れる音とともに、血飛沫が飛び散った。
「きゃぁぁぁぁっ!」
悲鳴を上げるアリスの眼前で、右肩から赤い血を吹き出させる野獣が床に崩れ落ちた。
「いやっ」
アリスは反射的に飛び出して、野獣に縋り付こうとした。が、その腕をゴルドールが先に捕まえた。
「やだっ、放してっ」
「目を覚ませ、アリス。あれは人間ではない。君は騙されていたんだ」
ゴルドールはアリスを羽交い締めにしたまま、引きずり、外へ出ようと向かう。
その背後で天上が崩れ落ちた。野獣の姿がその向こうに見えなくなった。
「いやあぁぁぁっ」
アリスは身体を捻ってゴルドールの腕から抜け出ようとする。と、すっぽりガウンが脱げた。きちんと着ていなかったのが幸いしたのだ。アリスはするりとゴルドールの手から逃れることができた。
「人間でも野獣でも、関係ないのっ」
言ってアリスは一糸纏わぬ姿のまま、炎の中へ飛び込んでいった。
「アリスッ!」
ゴルドールの呼ぶ声が背後に聞こえた。しかし、燃え盛る炎の中を、追っては来なかった。
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