美少女と野獣
W-1
「アリスッ、アリスッ」
肩を揺すぶられてアリスは目を覚ました。と、目の前に野獣の顔があった。もう、すっかり愛しい者のそれだった。
「ん…どうしたの?」
昼間から繰り返し何度も交わって、さすがに疲れて眠りについたばかりだった。身体の奥がまだじくじくて、このまま微睡みに埋もれてしまうのが一番気持ちいい。
なのに、そうもさせてもらえないようだった。
「外が明るい。誰か来た」
「えっ?」
アリスは眠い目を擦って起き上がった。成る程、窓の外が真夜中にも関わらず明るく照らされているのがカーテン越しに見えた。
「また迷子かなぁ」
寝ぼけて呟くアリスの目に、カーテンを開けた窓の景色が飛び込んで来た。
「火? 火事!?」
野獣の舌打ちが聞こえた。途端にアリスは野獣に抱えられた。
「何者かが屋敷に火をつけたようだ。逃げるぞ」
野獣は、せめてバスローブを着させろとだだをこねるアリスに素早くガウンをを羽織らせ、紐を閉める間もなくそのまま担ぎ上げた。
部屋を出て野獣は階段に向かったが、その手前で立ち止まった。
「?」
何があるのかと首を巡らそうとするアリスを野獣は肩から降ろした。そこにアリスが見た人物。
「ヴァン…さん?」
今日アリスの夫となる筈だったゴルドールヴァンが立っていた。花婿の白い衣装のままに。
「どうして…」
「捜したよ、アリス」
近付いてくるゴルドール。つい先程まで野獣と交わっていた姿の自分に気づいて、アリスは慌ててガウンの前を掻き合わせる。そのまま野獣の後ろに隠れた。
「どうした? マリッジブルーも大概にしたまえ。さあ」
差し出すゴルドールの手を叩き落としたのは、野獣の毛むくじゃらの手だった。
「アリスは帰らない。俺のものだ」
その野獣の言葉を鼻で笑って。
「ケダモノが何を言うか。その醜い姿でアリスと釣り合いが取れるとでも思っているのかね?」
ギリッと歯軋りする音が聞こえた。見上げると、野獣はゴルドールを睨んで牙を剥き出している。今にもその尖った牙と鋭い爪でゴルドールを引き裂こうとでもしそうな野獣に、ゴルドールは腰に差したものを抜き取る。
キラリと痩身の剣が抜かれ、野獣の目前に向けられた。
「ヴァンさんっ!」
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