美少女と野獣
U-3


「まあ、何て可愛らしい花嫁さんでしょう」

 白いドレスと白いヴェールに包まれて、アリスは周囲の感嘆の声を浴びた。しかしちっとも嬉しくなかった。

 一晩中眠れなかった。疲れ果てて眠るゴルドールの隣で自慰を繰り返してみたものの、収まらず、アリスは未だに疼く身体を持て余していた。

 このままゴルドールのものになって、一日中ベッドの中にいても、この疼きは晴らされないだろう。もうアリスはゴルドールでは満足できない身体になってしまったのだ。あの野獣のものを知ってから。

 それに気づいた時、ゴルドールとは一緒になれないと思った。

「支度はできたかね?」

 暗く沈むアリスが準備する室へ、ゴルドールが晴れやかな笑顔でやってきた。そこにいる自分の花嫁に、緩む顔がおさまらない様子で。

「すごく奇麗だ、アリス…」

 アリスに近付き、俯く少女の顎を取り、その唇に自分のものを重ねようとした。が、アリスに顔を背けられた。

「アリス…?」

 アリスは首を振る。

「ごめんなさい、ヴァンさん…」

 言ってアリスは涙の浮かぶ瞳で花婿を見上げる。

「私、やっぱり貴方とは一緒になれない」

「な…?」

 その言葉に耳を疑うゴルドール。今日は二人の晴れの結婚式の日だ。もう支度もでき、教会へ出向くだけの所なのだ。

「私と結婚するのが嫌になったのか?」

 少しきつい口調で聞き、アリスの肩を掴む。アリスはまた首を振る。

「ごめんなさい。私…私…昨夜、一度もイケなかったの」

「な…!」

 ストレートなアリスの言葉にゴルドールばかりでなく、周囲にいたもの全員が凍りつく。辛うじてゴルドールは平静さを取り戻す。

「イケなくても、私の子は産めるだろう?」
 ゴルドールはアリスの腕を掴み、そのままグイッと引きずるようにして部屋を出る。

「待って、ヴァンさん」
 嫌がるアリス。

「私、ヴァンさんのオモチャじゃないよ?」

「私も…!」

 ゴルドールはアリスを振り返ることなく語調を強める。

「君のオモチャではない。とにかく、君は私のものだ。誰にも渡さん」

 先をずんずん歩くゴルドール。アリスはその手を思いっきり振り払った。

「いやっ」

 ようやくゴルドールが振り返る。

「何を嫌がる? 私と君が一緒になるのは、この町の未来の為でもあるのだよ?」

「そんなの、知らないっ」

 アリスはゴルドールの言葉も振り払うように、駆け出した。

「アリスッ」

 ドレス姿で逃げるアリスを捕まえるのは造作もないことだった。あっさりとゴルドールの腕に捕らえられた。

「もう逃げられない。言っただろう、誰にも渡さないと。そうだ、首に鎖をつけて繋いでおこうか。私の可愛いペットとして」

 耳元でアリスにだけ聞こえるように囁くゴルドール。その顔をちらりと見やって、アリスはヒールの踵を蹴り上げた。

「――――ッ!!」

 その切っ先が命中したのはゴルドールの股間だった。悲鳴なにらない悲鳴を上げて、ゴルドールはその場にうずくまった。その隙にアリスは駆け出した。

 あの森へ。

 あの野獣の待つ屋敷へ。






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