青い月赤い石
10
騙していた訳ではない。黙っていただけ。言えなかっただけ。嫌われるのが怖かったから。失いたくなかったから。それ程までに非人道的なことをしたとの自覚がある。
しかしそんな事はガゼルには言える筈もなかった。第一、何を言っても言い訳にしかならない。
「あたし、ガゼルさんのこと、もう信じられない」
顔を背けたまま、絞り出すようにして言うセティア。
「決まりだな」
ブレインが、そう言いながら近づいてくる。
「彼女のことも、石のことも全て諦めてもらおう」
ブレインはガゼルの肩に手を触れようとして、弾かれる。振り返り様に相手を睨み据えるガゼル。
「ざけたこと言ってんじゃねぇよ。セティも石も渡さねぇ」
言うが早いか、ガゼルは床を蹴って駆け出し、ブレインの懐に右拳をたたき込もうとする。が、一瞬の差で避けられた。
「なっ?」
素早いブレインの動きに気を取られたため、後ろががら開きだった。
その背後に別の人影が立ったかと思った瞬間、後頭部に激痛が走った。
思わずうずくまる。
が、すぐに起き上がろうと振り返る。その見たその先に光るもの――剣があった。それが素早く振り下ろされた。
「ガゼルさんっ!」
悲鳴にも似たセティアの声が聞こえた。途端、肩から背にかけて鋭く熱いものが走った。
もう終わりかと思って、そのまま気が遠くなっていった。
「ようやく全部揃ったな」
ブレインの手の中には6つの赤い石があった。電灯の光を受けて、鈍く光っていた。
それを手に、ベッドの上で項垂れているままのセティアを見やり、近づいて、顎を取る。
「諦めろ。ガゼルは死んだんだ」
途端、パシリと手を叩かれた。
睨み上げてくる目は、ガゼルのそれとよく似ていた。
「ガゼルさんが父母の敵だと言うのなら、あなた達も同じ。これ以上、あたしはあなた達の慰み物になる気なんてない」
「おっと」
舌をかみ切ろうとするのを素早く見抜いて、ブレインはセティアの口を開かせ、シーツを手繰り寄せると、それを口に押し込める。
「ん…っ」
「安心しろ。すぐに死ぬ以上の苦しみと快楽を味あわせてやる。存分にな」
言いながらセティアの両手を取って、ロープで縛る。
「んんっ」
抵抗するが、まるで敵わず、セティアはされるままに両手をベッドの支柱にくくり付けられた。
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