青い月赤い石
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「セティッ」

 耳元で名を呼ばれ、ゆっくりと目を覚ました。ぼんやり見えたものは、漆黒の瞳だった。セティアが目を開けたのを見てホッとするのがありありと分かった。

「ガゼルさん…」

 愛しい人。大好きな人。しかし、セティアは思わず身を引く。

「セティ…?」

「いやっ、触らないでっ」

 差し出されるガゼルの手を振り払った。戸惑う表情のガゼルに、背後から声がかかる。

「仕方なかろう。親の敵なのだからな」

 ブレインの声だった。

 セティアはここがまだ彼の家で、つい先程までこの男とエドガーの二人に好きにされていたベッドの上だと気づいた。

 ではガゼルは何故ここにいめのか。ここへ石を持って来たのか。

「石は…」

 思い出してセティアはガゼルとブレインを交互に見やる。そして、ブレインの手に6つの石のあることを知る。セティアの集めたもの4つと、ガゼルの持っていたものに、ブレインのもの。

 石を手に入れる為に父母まで殺したと言うに、どうしてガゼルはそんなにも簡単にブレインに渡してしまったのだろうか。

「ガゼルさんはその石が欲しかったんじゃないの?」

 その為にセティアを利用したのだ。セティアに石を集めさせ、セティアの身体を使って元の形に戻そうとしたのだ。そう言うセティアに返って来たのは、淋しげな笑顔だった。

「お前には代えられないだろ?」

 僅かに目を細める。切ないくらいに揺れる瞳に、胸が締め付けられるような気がする。

 嘘をついているなんて思えない。だが、今までその目に騙されてきたのだ。ずっと。

 大好きだったのに。大好きなのに。

「もう三文芝居は終わりだ」

 そのセティアの堂々巡りな気持ちを止める声。

「ここから先は彼女自身が決めることだ。我々を取るか、お前を取るか」

 その言葉にハッとする。

「セティ…」

 覗き込んでくるガゼルから自然に視線が逸れる。

「本当なの? この人達の言っていたこと」

「…」

 返せないでいるガゼルに、それが肯定だと一瞬で理解する。

「騙してたの、あたしのこと。どうして?」

「……悪かった」

 ガゼルは項垂れる。



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