青い月赤い石
3
ガックリと肩を落とすセティアに、男はため息をつく。
「まあいい。お前、家事くらいはできよう?」
その言葉に顔を上げると、男はわずかに目を細める。また、胸が鳴る。
「ここにいさせてやる交換条件だ」
「え…?」
「給料も払ってやる。悪くはなかろう?」
ニヤリと笑う男に、セティアは慌てて言い返す。
「お給料なんてあたし…置いていただけるだけで十分だから…その…」
セティアは思わず立ち上がって、一生懸命に説明する。そのセティアに男は表情を和ませる。
「給料がいらないんなら小遣いとして取っておけ。俺はどちらでもかまわん」
言って立ち上がり、セティアの側に寄る。見下ろしてくる目がひどく優しげに見えて、セティアは胸が高鳴るのを感じる。
いつか、この目を見たような気がする。とても懐かしくて、切ない思いが胸に広がる。
「あのっ、あのっ、よろしくお願いしますっ」
ペコリと頭を下げる。そのセティアの肩に手を置いて、男は肩の上の髪を指に絡める。ハニーブロンドが吸い付くように男の手に絡まる。
「ああ、俺はガゼル・ヴァリュックだ」
「あたし、セティ…セティア・ラズベルって言います」
にっこり向ける笑顔に、ガゼルは一瞬眉をひそめるが、すぐに優しげな目でうなずいた。
「そうか、よろしくな。セティア」
「セティって呼んでください。ヴァリュックさん」
ガゼルはセティアの肩から背に手を回す。
「来い、屋敷の中を案内する」
セティアは言われるままにガゼルに従う。
「あ、それから、『ヴァリュックさん』はやめろ。俺のことはガゼルでいい。今日からは家族なんだからな」
セティアは、そう言われてガゼルの顔を見上げる。見返す瞳が優しい色を映す。
胸の奥がまた熱くなる。
ここへ来てよかったと思った。やはりばっちゃまの言うことに間違いはないのだと思った。
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