青い月赤い石
9
バスルームから出てくると、ガゼルがドアのすぐ前で待っていた。
「大丈夫…だったか?」
心配そうに顔を覗き込んでくるガゼルの頬を、セティアは思いっきりひっぱたいた。小気味いい音が部屋中に響いた。
「大丈夫なわけないでしょっ、ばかっ!」
叫んで、セティアはその場にへたりこむ。腰の後ろを痛そうに押さえながら。
「セティッ?」
慌ててガゼルも床に座り込んで、セティアの腰に手を回そうとして、叩かれた。セティアの目尻に涙がにじんでいて、余程痛いのだろうことがさすがのガゼルにも分かった。
「悪かった。後ろは初めてだったのに、つい、いつもの調子でやてしまって」
優しく背に手を回して撫でてくるガゼルに、セティアは座っているのも辛くてついその胸に身体を預ける。
「だが良かっただろ? お前、気持ち良さそうだったぞ」
言った途端、下からセティアに睨まれた。ガゼルは仕方無さそうに小さく舌打ちして言う。
「仕方ない。では今夜はデートでもするか」
そんなことを突然言い出すガゼルに、セティアが驚いて見返すと、ガゼルはニヤリと笑みを見せる。
「オペラを知ってるか? 今話題になってるんだが」
「えっ?」
「実はいい席を取ったんだ。一緒に行こう」
セティアは余りな偶然に驚いた。言葉もないセティアを、ガゼルは了承と取ったのか、そのままそっと横抱きに抱き上げる。
「だからそれまでゆっくり休め」
ひどく優しい物言いのガゼルに、セティアは恐る恐る聞いてみる。
「じゃあ、今日はもう何もしない?」
「それは保障できないな」
「もうっ」
ぽかりと、ガゼルの頭を殴る。その反動でまたズキリと痛む腰。慌ててガゼルにしがみつく。
そんなセティアを抱くガゼルの腕に、そっと力が入った。
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